慶應義塾大学SFC 総合政策学部 小論文 1992年 解説

・ 問題文

問題 つぎの3つの文章は、いずれも時代および社会・文化によって「時間」の観念がいかに相対的で、多様であるかを語っています。
それぞれの文章の論点に言及しながら、きみたちがやがて生きていく21世紀の社会と文化の特徴を想定し、そのなかにおける「時間」の意味と役割について、きみ自身の考えを、1000字以内で述べなさい。

・ 問題の読み方

 時間の概念について整理し、その中で問題となりうる課題を提起し、その原因を分析し、解決策or結論を提起し、吟味するだけの比較的簡単な問題。

・ SFC小論文に求められる解答の指針

 極めて抽象的な話題であるため、コンピューター技術への知見などを活かして具体化していく必要がある。高校の情報で習得できる程度の、基本的なコンピューターに対する理解はSFCを受験する上では必要不可欠である。

・ 模範解答

議論の整理……

資料1では、人それぞれの仕事の仕方の違いに基いて、時間の使い方を分類している。時間を多元的に活用する考え方を、「ポリクロニック・タイム」といい、こうした時間の使い方をする人は一度に多くのことをこなそうとする。彼らにとって重要なのは、仕事の内容であり、仕事の期限はしばしば無視される。一方、時間を一元的に活用する考え方を「モノクロニック・タイム」といい、こうした時間の使い方をする人は一度に一つのことしかこなさない。彼らにとって重要なのは、仕事の期限であり、仕事の内容の分析はしばしば実行者に一任される。
また、資料2では、時間の移ろいの捉え方の違いに基いて、時間を分類している。ここでは、歴史が過去から未来に一直線に何の反復もなく進んでいくという考え方を「時間の矢」という。一方で、歴史がある事象の反復にすぎないという考え方を「時間の環」という。
最後に、資料3では、コンピューターの時間感覚と人間の時間間隔にはスピード感という点で極めて大きな隔たりがあることを述べている。

資料1

 私は、一度に多くのことをすることを、ポリクロニック・タイム(多元的時間ーPolychronicTimeー)と名づけ、北ヨーロッパのように、一度にひとつのことしかしないやり方をモノクロニック・タイム(単一時間一MonochronicTimeー)と名づけた。ポリクロニックな時間は、現在のスケジュールを守るというよりも,人間のかかわり合いと,相互交流に力点を置く。ひとと会う約束はそれほど重大なものとは考えられず。その結果しばしば破られる。ポリクロニックな時間は,モノクロニックな時間よりも実体のないものとして扱われる。ポリクロニックな民族にとっては,時間の「浪費」はめったに経験されず。時間は直線的な帯あるいは道としてよりも,むしろ点として考えられがちである。しかも,その点はしばしば神聖な点である。

資料2

 その二分法の一端で、私が「時間の矢」と呼んでいる側では,歴史とは反復しない事象の一方向性の連鎖である。各一瞬は時間の流れの中で独自の地位を占めており,すべての瞬間を正しい順序でつなげると,関連した出来事が一方向に流れ,ひとつの物語が語られる。

 二分法の一端で,私が「時間の環」と呼んでいる側では,事象は,偶発的な歴史に因果的な衝撃を及ぼす個別の出来事としては何の意味ももたない。根本的な状態は,時間に内在し,常に存在するが決して変わらない。見かけ上の運動は反復する環の一部であり,さまざまな過去が,未来で再び現実のものとして繰り返される。そこでは,時間は方向性をもっていない。

資料3

 わずか20年間に、コンピューターはわれわれの文化のあらゆる側面に侵入し、われわれの生活様式を変化させてしまった。1990年までに、全米の労働者の50%近くが電子端末装置を使用するようになるだろう。さらにオフィスや工場や学校の約3,800万の作業端末がオンライン化されているだろう。そして2000年までには約3,400万戸の家庭がホーム・コンピューターを所有するようになり、その他700万台のポータブル端末機が使用されるようになるものと見られている。コンピューターは急速にごくありふれた物と化し、現代生活のありとあらゆるすみずみにまで入りこんでいる。コンピューターはわれわれの働き方、遊び方、通信や交際の仕方を変え、環境そのもの、さらには環境と人間の関係を変えている。しかし一番重要なのは、それが時間とわれわれの間の関係を変えていることである。

 

 コンピューターは新しい時間の展望をもたらし、それと同時に新しい未来観を生じさせる。われわれは時計を使って時を計る習慣に慣れきっているから、われわれの心は、今までとはまったくことなる計時法を使用するという考え方には当然、非常に反接する。まだコンピューターが出現してから間もない現在では、時計からコンピューターへの計時法変化の影響を完全に把握すること、いやそれを想像することさえ困難であるが、この新しい計時器のユニークな特徴をよく検討してみれば、これから先時間の意識に生じるはずの変化を知る手がかりを得ることができよう。

問題発見……

これら三つの「時間」に関する論考は、いずれも現代人の時間の配分やその時間の中でなされる仕事の方法の非効率や、今後生じるであろう齟齬について問題にしている。この中でも特に私は、我々が時間の使い方を考える上で陥りがちな「長い時間を使えば、良い仕事の成果が出る」という考え方の持つ誤謬について述べたい。

……双方がそれぞれ双方を取り入れない原因として何があるかを分析した結果として、「いずれも現代人の時間の配分やその時間の中でなされる仕事の方法の非効率や、今後生じるであろう齟齬」があるため、それを問題提起している。

論証……

まず、我々が長時間働けば良い成果が出ると考えるのは、長時間働くことで習熟曲線が働き、仕事がより効率化されると考えるためである。
だが、実際にはこうした習熟曲線は働かないことが多い。むしろ、一時間追加ごとの生産量の向上は、長時間労働が加速すれば加速するほど減少するといってもいい。または、生産量そのものが減少することさえあるだろう。

……我々の考え方の誤謬と、その根拠が書かれている。

解決策or結論……

よって、我々がまず考えなければいけないのは、我々の仕事を単発的な思いつきによるものから、ある程度反復作業化できるものに変えていき、それを人に任せることである。マックというオペレーションシステムでは、ある程度良く使われる反復作業のマクロがプリインストールされているが、私達の仕事においてもこういったデーターベースを作るのは必要不可欠である。こうした取り組みの場合、各分野の仕事の専門的な知識と、コンピューターサイエンスの成果を融合させる学際的な取り組みもまた必要であろう。こうした取り組みに成功すれば、我々は、コンピューターサイエンスの専門家を持っていない既存の競合が持てない強みをもつことができるようになる。資料2の言葉を借りれば、「時間の矢」を「時間の環」にするような働きがまずは大切である。

……解決策or結論を文中の概念を用いて説明している。

解決策or結論の吟味……

また、こうした仕事の移譲をコンピューターにまかせても良い。コンピューターが主人公となり、人間がそれに振り回されるような仕事の仕方をしていては、確かに資料3にあるようなコンピューターの時間感覚と人間の時間感覚の違いによる齟齬を生むが、人間が主人公として、コンピューターに習熟し、コンピューターを操作するするような感覚を持てば、こうした齟齬は一気に減るだろう。
他にも、このようにコンピューターや人間に仕事を頼む際は、自分一人で仕事をするモノクロニックな時間の使い方をする時間帯だけではなく、一日の最初と最後にポリクロニックな時間の使い方をする時間帯を確保するべきである。そうすることにより、我々は仕事の期限のみならず、仕事の内容にも焦点を当て、より質の高い仕事をできるようになるだろう。

……コンピューターと人間という利害関係者双方の利害について言及している。

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