慶應義塾大学SFC 総合政策学部 小論文 1993年 解説

・ 問題文

問題 西欧近代が生みだした「科学の知」は全人類史に普遍的な,唯一絶対の知であると主張する説に対して,最近では,近代科学を相対化し,知の多様性と多元性を強調して,新しい知の可能性を模索する試みがさまざまな形で行われています。以下のA,B,C3つの文章は,そうした最近の試みを示しています。3つの文章それぞれの論点に言及しながら,近代西欧の「科学の知」の主要な問題点を指摘し,「未来の知はいかにあるべきか」について,きみ自身の考えを1000字以内で述べなさい。

・ 問題の読み方

 こうした知的心構えを取り扱う問題全般に言える特徴だが、まず書くべきは「あるべき知的心構え」ではなく、「忌諱すべき知的心構え」への問題意識である。

 課題文中でまとめられている課題文を整理した上で、「忌諱すべき知的心構え」への問題意識を明確にし、その原因を分析し、解決策or結論を提案し、その解決策or結論を吟味すれば良い。

・ SFC小論文に求められる解答の指針

 SFCとしては珍しく、かなり抽象的なテーマを扱った小論文であるため、基礎的な教養が深いことが求められる。あらゆる学問分野の学びを統合し論じることができるような哲学などへの深い造詣が求められる問題である。

・ 模範解答

議論の整理……

課題文のすべてにおいて、西洋近代が生み出した「科学の知」の効用を認めた上で批判し、それに変わる新しい知のあり方を示している。例えば、文章Aでは、近代科学が「普遍性」「論理性」「客観性」という効用を持っていたこと、それに変わる新しい知のあり方として「コスモロジー」「シンボリズム」「パフォーマンス」という新しいあり方を示している。また、文章Bにおいては、近代科学が「客観主義」という効用を持っていたこと、それに変わる新しい知のあり方として、「身体化された創造的理解」を持っていることを示している。また、文章Cでは、「有効性」という効用を持っていること、それに対して新しい知のあり方として「バードアイ・ヴュゥ」を持たなければならないとしている。

……以下、根拠となった部分を引用する。

資料A

 さてく臨床の知〉は,科学の知の三つの構成原理を先のように端的に,(1)普遍主義,(2)論理主義,(3)客観主義と呼ぶとき,そのそれぞれに対して,(1)コスモロジー。(2)シンボリズム,(3)パフォーマンスと私が呼ぶものを構成原理としている。

資料B

 〔ここで私は,〕身体化された理解の構造が〔客観性に対して〕もつ明らかな重要性を強調したい。これは,共有された構造であって、共同体が何を「客観的」とみなすかを規定するのに役割を演じている。

資料C

 西欧近代の表看板であるあの「一意的法則による。時間・空間内での事象の記述」という方式は、たしかに知識体系としては、宇宙に至る巨視的な規模から、素粒子に至る微視的な規模まで、すべてを一貫した論理のなかに見据えることができる。という卓越した特性を備えてはいるが、一方から言えば必然的に、広域で同時的、共時的に起る事象どうしの間の有機的関係に関しては、ほとんど無視せざるを得ない、という宿命を備えている。

 その点を勘案すれば、われわれの執るべき道は、何よりもまず、つねに地球全体の規模でものを見据えなければならない。言ってみれば、諸々の共時的に地球上に存在する事態を、一望のもとに納めるだけの鳥の眼視角(バードアイ・ヴュウ)をもたなければならない。ここでも、共時的秩序の追究という提案は、有効性をもつであろう。

問題発見……

西洋の知の主要な問題点の一つは、自らの知性の無謬性に対する過信である。
なぜ、彼らが自らの知を過信するかというと、その背景には彼らの科学が持つ反証可能性にある。西洋の知の構造は、自らの論の瑕疵を絶えず批判しつづけ、テーゼとアンチテーゼをアウフヘーベンし、シンテーゼにし続けることにある。
この方法論への絶対的な信頼が、少なくともこうした方法論を採っている限りは、西洋近代が生み出した知のあり方は正しいという過信を生み出した。

……この程度のことは、もともとある知識で掛けなければこの小論文には対応できない。対策としては、アカデミックの暗誦がある。

論証……

だが、実際にはこうした知のあり方は、すべての知の体系に対して万能に作用するわけではない。
なぜなら、知の体系の一種には、こうした反証を受け入れない構造の知が存在するためである。
たとえば、マルクス主義はフロイト心理学は、それぞれに自明の前提を抱えており、彼らがそうした自明の前提を抱えている限りは、どんな反論さえも撥ね退けてしまう。

……これについても、アカデミックに書いてある記述で十分対応できる。

解決策or結論……

こうした種類の知に対しては、西洋近代の知のあり方が、その正しさを担保するために用いた反証を用いての立論ではなく、他の検証方法が必要である。たとえば、行動経済学のモデルを用いた実験などを用いながら、その理論の整合性を検証するあり方などが考えられるだろう。

……これについても、様々な学問分野についての知識がないと、なかなか書けない文章だろう。おすすめするのは、慶應SFCの小論文の課題文になった本を一通り読むことである。

解決策or結論の吟味……

こうした検証方法は、物事を観念的に考えるのではなく、より実践的に考えているという点で、少なくとも実証実験が不可能な社会科学・人文科学分野の思考をする際には有用である。また、こうした行動モデルによるシュミレーションが、実証実験を経ないうちに、人々を不幸にする主義主張の実現を防止する上で大いに役立つだろう。

……これは、他の解決策or結論との比較という方法を用いた解決策or結論の吟味である。

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