慶應義塾大学SFC 総合政策学部 小論文 2001年 解説

・ 問題文

 次の7つの資料は,日本の政治とリーダーシップの関係を様々な観点から論じたものです。これらの資料をもとに,あなたが重要と考える論点を対比させ,それを踏まえて,21世紀の日本における政治とリーダーシップはどのような関係にあるべきかを論述しなさい。(合計で1000字以内)

・ 問題の読み方

 政治とリーダーシップの関係についての問題だが、マキャベリの君主論に代表されるリーダーシップ論についての知識がないといささか書きにくい問題である。読むべき本としては、「良い子の君主論」という本がある。他にもこうした入門書はあり、伊藤元重の「市場主義」や内田樹の「寝ながら学べる構造主義」はそうした入門書の一つである。

 さて、こうした知識がなくともこの小論文を書く方法としては、課題文を読み込むことである。資料1〜7についてまとめることができれば、その中で問題提起し、論証し、解決策or結論を書き、解決策or結論を吟味することはさほど難しいことではない。

 だが、ここで問題提起をする上での問題意識を持たなければならない。問題意識はそうそう持つことが出来るものではないので、政治学のみならず経済学や行動心理学・社会心理学・統計学の視点からも批判的な精神を養わなければならない。こうした能力を開花させるためにもっとも重要なことは先人が持つ批判精神をトレースすることである。日々の読書の蓄積が、大きく影響してくる小論文だといえよう。

・ SFC小論文に求められる解答の指針

 政治学のみならず、歴史をも踏まえた解答を書けると強い。SFCが学際分野の研究を好むことを認識さえしていれば、三田にある学部の併願者にとっては点数を出しやすい問題であるといえる。また法学部にも類題があるので、演習をおすすめする。

・ 模範解答

議論の整理→

資料1〜7はいずれも日本の政治とリーダーシップの関係について述べている。資料1では、デモクラシーを「指導者の存在しない制度」と定義することのリスクについて提起している。資料2では、国家を統治するための政体について述べている。資料3は、日本での権力の成立の仕方について述べており、資料4では日本の政治制度と諸外国の政治制度を比較している。資料5では、日米関係について述べており、資料6については日本の占領軍統治下の様子について述べている。また資料7では、既存の法制が機能しなくなる非常事態について述べている。

……以下が引用部分の根拠です。

資料1

 デモクラシーを「指導者の存在しない制度」と同視する素朴なデモクラシー観は,かえって複雑に転変する状況にたいする組織の敏速な適応を困難にし、組織を実質的に群集化することによって,かえって非合理的な投機的指導に組織の運命を委ねる結果になりやすい。ファシズムの指導者原理は,こういう素朴なデモクラシー主義の盲点をついて出現したといえるのであって,この深刻な経験を経て,今日,デモクラシーにおけるリーダーシップの問題が最も重要な課題として意識されるに至ったのである。

資料2

 もっとも、政体などというものは、それこそ道具で、これが一番上等で、これならば未来永却加やくに立つ上等品というのはないですよ。この世に完全なものは絶対にないように、すべて相対的なものです。とすれば、時代の変化によって適しないようになることはあるべきはずです。そうなると、世間はそれをやめて、適する形のものと取換えるのです。律令制度時代、摂関時代、武家時代とかわって来たのは、その選択だろうと思います。だから。明治時代には天皇中心のものが一番よかったとぼくは思うんですよ。

資料3

 日本での権力の成立のしかたというのは、じつにむずかしいと思います。(中略)よほどの知識人でも、権力ということばをつかうとき。どこか富話的なにおいがあり、どこかそらぞらしく、どこか具体的実感を欠き、どこかバタくさいのは、権力という言葉そのものが西洋概念からの翻訳語であるところから抜けきっていないからでしようか。

資料4

 日本の政治制度をあるがままに捉え、アメリカ、イギリス、ヨーロッパ大陸のお手本と似ていなければならないなどと決めつけないかぎり、民主政治の仕組みとしてけっこう有効で、欧米と比べてもそれほど見劣りしないばかりか、まさった面もあるように見える。

資料5

 日米関係を共通の地政学的利益に基づいて再び活性化し,明確にするにあたっては,大きな障害がある。経済摩擦はよく知られている通りであるが,文化的障害がより深い根を持っていたということになるかもしれない。

 この障害は両国の意志決定の方法の違いに顕著に現れており,非常にやっかいで,時には激しい感情的対立の原因にもなる。アメリカでは政策決定者の地位に基づいて決定がなされる。すなわち,権威のある人一多くの場合大統領であり。国務長官の時もあるが,多かれ少なかれ地位の力によっていくつかの選択肢の中から決定する。日本の場合,コンセンサスによって動く。たとえ総理大臣であっても,一人の人間には決定する権限はない。決定を実施しなければならない人は皆,コンセンサス形成に従事する。コンセンサスは満場一致をみるまでは完全とは見なされない。

資料6

 一九四六年二月,連合国軍総司令部(GHQ)が憲法草案を作ったとき,参議院はなかった。当時日本側の憲法起草の責任者だった松本蒸治国務相が,この点について説明を求めたところ,GHQは,華族制度がなくなるのだから、上院はいらないだろうと答えた。これに対し松本は,下院の行き過ぎを抑えるために二院制が望ましいと言い,GHQは松本の意見を受け入れて二院制度とした。(中略)

資料7

 法治に徹しようということそれ自体は立派な主張ではある。しかし,既存の法制が機能しなくなる非常事態というものがありうるという点が,それらの法治主義者にあっては,見過しにされている。(中略)

 超法規つまり非合法の行為を法規のうちに合法として組み込むという逆説的な営みの産物,それが非常事態法である。(中略)戦後の我が国において,非常事態法は,制定法としては不在とはいうものの,皆無というわけではない。そして「戦後」の第一権力は「世論」にほかならないのであるから公共当局のなす超法規の行為は,世論に適合するような種類のものならば歓迎され,そうでないものは厳禁されるという有り様になったのだ。(中略)

問題発見→

政治におけるリーダーシップとはとかく困難なものである。今日の日本においては、強いリーダーシップは独裁と受け止められ、弱いリーダーシップは決定力の欠如と批判される。

論証→

さて、今日の日本においては支持率調査などを見る限りでは、独断専行型の強いリーダーに支持が集まる傾向がある。ここで私が疑問を覚えるのは、強いリーダーが弱いリーダーに比して高尚な政策を持っているわけでもないことである。にもかかわらず、彼らはその独断専行ぶりにより国民からの力強い支持を集めている。
たとえば、小泉政権下における郵政民営化はその代表的な事例である。国民の過半数をやや上回る程度が郵政民営化に反対であったにも関わらず、国民は力強く小泉政権を支持した。
過去を遡れば、ナチスドイツもそのような政権の一つである。エーリッヒ・フロムはなぜかも残虐なユダヤ人に対する民族浄化を企てたナチス・ドイツが合法的に権力を掌握したかという問題に「自由からの逃走」という著書で挑んでいる。フロムによれば、人々はナチス・ドイツの主張の正しさに惹かれたわけではなく、むしろ主張の力強さに惹かれたという。

解決策or結論→

強いリーダーが誤った政策を採用した場合の惨禍は、すでに世界の多くの国家が経験していることだ。こうした指導者の暴走を食い止めるために、多くの国では三権分立や立憲主義に代表される権力抑制策を講じている。日本においてもまたこうした策が講じられているが、残念ながらこうした措置は蹂躙されつつある。

解決策or結論の吟味→

三権分立や立憲主義がないがしろにされつつある今こそ、最高裁判所裁判官罷免選挙の方式変更や、違憲立法審査の手続き簡略化などの対策が求められるだろう。

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