■ 議論の整理・・・
ポストモダンとは,消費者行動研究では,一般的な概念とは異なり,モダン消費を研究する実証主義的な方法に対して,「非実証主義的な研究方法の総称」として用いられる場合が多い。1970年代までの消費者行動研究では,科学的・客観的に消費者行動を実証するアプローチ手法(モダン的研究)が主流であった。しかし,モダン的研究により消費者行動を定量的・定型的に捉えるだけでは,研究に行き詰まりや矛盾が生じるようになったため,「使用経験」と「感情」に着目し,観察やデプスインタビュー(深層面接法)のようなアプローチ手法を用いたポストモダン的研究が登場した。このポストモダン的研究は,ポストモダンという言葉の多義性を問題視する研究者らには,解釈主義や解釈主義的アプローチという用語を用いて論じられている。
■ 問題発見・・・
では,このポストモダン的手法を用いて,一定条件の人々の消費生活について分析をするには,どうすれば良いだろうか。
■ 論証・・・
通常の市場調査においては,集団面接は,事前に作成するインタビューガイドに従い,2~3時間程度のセッションによって行われる。しかし,この程度の時間では,近年の新しい定性調査の鍵と主張するような,「長期にわたる密な関係」を築くことは極めて困難である。加えて,集団の中で,自己を表現することを苦手とする日本人の場合, 価値観や消費経験の意味の解釈に用い得るような情報を得ることは,ほぼ不可能といえる。このため,少なくとも1回あたり2時間程度のセッションを,週1回定期的に継続的して開催し,少なくとも5回程度のセッションを確保することが重要である。これによって,次第に調査対象者の間に,うち解けた雰囲気,信頼感や一体感が生まれ,通常の調査では隠されがちな,プライバシーにかかわる話題まで話し合われるようになる。また,ここで調査者が気をつけるべきことは,調査対象者たちが自らの消費経験について語りやすい雰囲気を創り出すことであり,決して発話を強制せず自主的に話す気持ちになるまでは,他の対象者の話を聞くという参加の仕方も認めることが重要である(*1)。
■ 結論・・・
そこで,ポストモダン手法を用いて,近年増えてきている配偶者や子供を持たない年金生活者の消費者行動について研究したいと考えている。
■ 結論の吟味・・・
この研究を進めるため,貴学SFCに入学し,ポストモダン手法による消費者行動について研究している桑原武夫教授の研究会に入会することを強く希望する。
(*1) 桑原武夫,栗林敦子,越後節子.“定年以上老人未満の幸せのかたち”, ニッセイ基礎研所報, Vol.27, pp.1-45, 2003
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