慶應義塾大学 法学部政治学科 FIT入試 志望理由書 提出例(堤林 剣研究会向け)

■議論の整理論

ルソーの思想的プリズムが東アジアのデモクラシーに与えた影響は大きい。ルソーの思想は、恐怖政治の主役たちにも、全体主義の擁護者たちにも援用されてきた。ロベ スピエールやサン=ジュストがルソーの信奉者であったことはあまりにも有名である。また、「ヒトラーはルソーの帰結である」というバートランド・ラッセルの言葉が、ルソー解釈としては甚だアナクロニズムに満ちたものであれ、ルソー主義の政治的作用の説明としては無視できない側面を有している。

こうした立場をとる者として、アイザイア・バーリンとバンジャマン・コンスタンがあげられる。両者とも、 理由づけは異なるものの、ルソーが圧政にとって都合のよい手段を提供したとしてルソーを批判する。コンスタンは、ルソーとルソー主義とを区別し、恐怖政治終結後に噴出したルソー批判に与することはなかった。にもかかわらず、コンスタンは、ルソーが危険なロジック、まさに専制的支配に都合のよいロジックを提供してしまい、その限りで批判されなければならないと訴えた。

日本のデモクラシーにおいても、ルソーの思想が大きな影響を与えた。日本のデモクラシーの新たな始まりは敗戦をきっかけとした。GHQの占領下で民主化が進めら、少なくとも初発においては、デモクラシーは上から与えられたといえる。つまり、「自由の強制」が戦後日本のデモクラシーの端緒となったのである。日本思想史研究者の宮村治雄は「天皇制論の遺産」と題する論文のなかで、こうした特殊日本的な状況をルソーの立法者とのアナロジーで理解する視角を提示している。宮村はGHQとルソー的立法者を類比的に捉えることによって、また「戦後天皇制論」の分析を通じて、日本のデモクラシーの成立過程に顕在化した問題に光を当てようと試みている。GHQ=立法者テーゼにしたがっていえば、敗戦直後に日本人は「自由を強制」されたことになる(*1)。

 

■問題発見

ここで,GHQ=立法者と仮定して、ルソーの思想が日本のデモクラシーの成立過程に与えた影響に対する課題について改めて考えてみたい。

 

■論証

戦後日本の歴史的ならびに精神的経験と向き合うことは、現在および未来の日本のデモクラシーについて考える際、依然として有意義であるというのが宮村の立場である。というのも、 戦後日本の逆説的問題状況は、デモクラシーのなんたるか、そしてそれがどのような問題・困難を孕んでいるか をわれわれに鋭く認識させると同時に、今日までのデモクラシーの展開における成功と失敗を批判的に吟味する 一つのパースペクティブを提供するからである。 今日の日本のことを考えた場合、一方でそのデモクラシーの成功について語ることは可能であろう。日本国憲法に謳われている主権在民も基本的人権も、今ではほとんどの日本国民によって尊ばれているといえるし、日本がデモクラシーであるという意識も一般的に共有されている。

しかし、だからといって日本国民が「自由な主体」になったといえるだろうか。つまり、「自らの良心に従って判断し行動し、その結果にたいして自ら責任を負う人間、つまり〈甘え〉に依存するのと反対の行動様式をもった人間類型の形成」に成功したであろうか。

宮村は、デモクラシーを考察する際には、デモクラシーがさまざまな局面において機能不全に陥っているという認識が広まるなかで、市民が「自由な主体」として相互的な信頼関係を構築していくかを問う必要があると考えている。

GHQ =立法者テーゼを手掛かりとしつつ戦後デモクラシーを再考するとき、ルソーの立法者論が孕む危うさに注目することで見えてくるものの意味は小さくないが重要である。「自由の強制」はデモクラシーにとって基本的に不利な 状況をもたらす。そこでは一定の形式的なデモクラシーが成立しえても、「自由の強制」に内在する根本的矛盾 が、さまざまな仕方で「自由な主体」の形成を阻害することになる。ルソーは、近代的問題を解決ないし回避するために、一般意志論を通じて、比較的均一的な共有意識の人為的構築と再生産を目指した。だが、これは今日、現実的でないだろうし、価値の多様性という現実を無視して、均一化を目指そうとすればナショナリズムの誘惑、悲劇的事態を招来することになろう。したがって、多元化を内包しつつ、自由と平和をもたらす、そして現在主義に由来する不安定さを克服する政治ないしデモクラシーの在り方を検討すべきである(*1)。

 

■結論

そこで,ルソーの思想研究を通じて、個人の原子化の進行や政治への失望などといった現在の日本の問題を解決できるデモクラシーの在り方について研究したいと考えている。

 

■結論の吟味

上述の研究を遂行するため,貴学法学部政治学科に入学し,近代政治思想史を専門に研究している教授の堤林剣研究会に入会することを強く希望する。

 

※1堤林剣(2012)「ルソーと東アジアのデモクラシーの未来」法學研究 : 法律・政治・社会 (Journal of law, politics, and sociology). Vol.85, No.6 (2012. 6) ,p.1- 40

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