慶應義塾大学 法学部政治学科 FIT入試 志望理由書 提出例(山本 信人研究会向け)

■議論の整理論

インドネシアでの反米「デモ」について、21世紀には、対米感情が大局的には良好であるとしても、インドネシアでは一時的に激しい反米感情が抗議行動という形をとって表現されてきた。激しい反米デモが一部の過激なイスラーム勢力から雇われた日雇いデモ隊のパフォーマンスであることは、インドネシアでは広く知られている。

この点を踏まえて、それでもなおなぜ激しい抗議行 動が一般のインドネシア市民にも支持されうるのかという点は、宗教の安全保障化の論理を応用することで理解できる。反米感情は、アメリカの行為が「悪い」と判断されることでつくられるのではない。むしろ、特定国の文脈に おいて非難される行為として米国の行為が認識される時に「悪」と呼ばれ、それが反米となる。それはその国の特殊事情を反映したものであるために、悪と呼ばれる行為は文脈ごとに変わる。厄介なのは、「悪」として認識されると、すでにその悪の行為をおこなったとされるアメリカは、社会あるいは共同体に対する侮辱的な存在として意識される。そればかりではなく時には特定社会の秩序を乱すものとされることもある。そこには社会秩序が破られる危険性が潜んでいるのであり、いきおい社会は悪に対して「感情的」に反応し、悪であるアメリカを 排除しようとする。これが一時的な「反米デモ」の正体である。

そして、反米デモを展開することで、悪を象徴する対象としての「アメリカ」が擬似的に破壊される。そうした儀式をとおして、社会には壊れかかっていた秩序が「回復」される。ここに宗教の安全保障化のインドネシア的転回がある。インドネシア社会あるいはイスラーム・コミュニティの秩序や安定の維持、まさに安全保障の問題として、反米「デモ」は機能したのである。このように反米の論理はきわめて国内政治的あるいは社会的な論理によって成立している。反米は囲内的にはナショナリズムの表出形態であり、社会的には宗教の保全であり、 その内向きの論理が外交関係の悪化へと結びつかない鍵ともなっている(*1)。

 

■問題発見

ここで,インドネシアの反米デモが宗教の安全保障化に果たす役割に対する課題について改めて考えてみたい。

 

■論証

大きな流れとして、1960年代までの反米感情とそれ以降のそれとは本質的に異なる性格を有している。スカルノの反米はインドネシア が体験したアメリカによる侵略に対する「反動」であった。それを支えていたのは、反帝国主義、反新植民地主義というイデオロギー性、当時の国際的な冷戦構造のなかにおけるインドネシア独自の外交姿勢であった。つまり、アメリカがインドネシアにとっての直接の脅威であった。

それに対し、1990年代以降、 つまりポスト冷戦期におけるインドネシアの反米では、アメリカはあくまでも間接的な脅威を構成するにすぎない。むしろアメリカがイスラ―ム圏に対しておこなう行為や外交政策に対する「反発」として、反米デモが発生するようになった。

宗教の安全保障化は構造化されたものではない点に鑑みると、今後徐々にその影は薄くなる可能性はある。実際に、2006年半ばの時点でアメリカ政府の公式言説からは「テロとの戦い」が消え、2009年にブッシュ政権からオバマ政権へと政権交代が起こったところで、アメリカのイスラーム政策に変化が生じ、それを受ける形でイスラーム諸国の対米関係も改善の兆しをみせた。そもそもテロリズムそれ自体が構造化されたものではないために、テロ言説を媒介にした宗教の安全保障化は一過性である。とはいえ、宗教がアイデンティティ政治の核として確立したことによって、今後新たな外部的条件が加わることで宗教の安全保障化が再構成され、「反米」言説が表面化する可能性は否定できない。

したがって、インドネシアの反米デモに関する宗教の役割を分析し、反米デモが起こるメカニズムを検証する必要がある(*1)。

 

■結論

そこで,国内政治的あるいは社会的な論理によって引き起こされる反米デモのメカニズムを検証し、宗教的要素がイスラーム圏に与える影響について研究したいと考えている。

 

■結論の吟味

上述の研究を遂行するため,貴学法学部政治学科に入学し,東南アジア地域研究や東南アジア国際関係を専門に研究している山本信人教授の研究会に入会することを強く希望する。

 

※1山本信人(2010)「インドネシアの「反米」感情 : 外交・デモ・宗教の安全保障化」法學研究 : 法律・政治・社会 (Journal of law, politics, and sociology). Vol.83, No.3 (2010. 3) ,p.101- 130

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