慶應義塾大学 法学部法律学科 FIT入試 志望理由書 提出例(水津 太郎研究会向け)

■議論の整理論

「物権性」の本質とはなにか。この問題につき、ドイツでは、ヴェスターマンを主唱者とする 「帰属論」という見解が主張されている。それによれば、物権性の本質はその「財貨帰属機能」に求められる。この見解は提唱以来、諸々の批判に晒され、現在支配的見解となるには至っていない。けれども、物権性の本質を語る際には無視できない有力な異説に位置づけられ、批判的吟味の対象とされている。のみならず、代表的・標準的文献のうちにこれを承継・発展させるものもみられる。

他方、わが国において、物権性の本質はその帰属機能にあると一言で断じるものは現在に至るまで存しない。しかし、これに類する考え方は主張されている。すなわち、物権法を「財貨移転秩序」と対置された「財貨帰属秩序」の 枠内に定位する広中俊雄の体系構想がそれである。この構想はひろく注目を集めているが、少なくとも物権性本 質論との関係においてはいまだ十分に分析・検討されているとはいえない。近時ではそもそも、物権性の本質それ自体を議論することに対する関心がいちじるしく低下している。

物権性本質論、ひいては私法における「帰属」概念の意味・位置づけを解明するために、ドイツにおいて各論者の議論は、「帰属論」というかたちで一括りにされるのが一般である。しかし、一口に「帰属論」といってもそのコンテクストは多様であり、このことが主張内容に看過できない差異をもたらしている。(*1)。

 

■問題発見

ここで「帰属論」における物権性の本質に関する課題について改めて考えてみたい。

 

■論証

帰属論について、ローマ普通法では所有権は元来無制約であるが、制限物権が設定されても所有者の所在に変更はなく、他方、ゲルマン法ではもとも と所有権と制限物権には質的差異はなく、家人法における内部所有権もなお所有権と語られうる。ここから、出発点は正反対であるが、「支配なき所有権」も所有権と規定されるのはなぜか、という同一の問いが生じる。

制限物権にも同一の理解を及ぼすのは論理上可能であるにもかかわらず、かれらの問いを前 提とする限り、そうしたインセンティブが生まれる余地はないのである。ローマ物権法体系の問題性、また、解 釈論上の諸問題に対して関心が払われていないのも、かれらの関心事からすれば当然のことといえよう。

「物権性の本質とはその帰属機能である」と定式化するにもかかわらず、ヴィアッカーのように、 帰属は債権・無体物・財産のような「法上財貨として承認されているすべての対象」につき語られるという。そ するとひるがえって、帰属は「物権」固有の性格ではないのではないかという疑問が生じる。ヴェスターマンは物権法体系の第一の支柱として「帰属」概念を提唱し、 絶対性・直接性はその発露にすぎないとみ、もう一つの支柱である物権的請求権を「対象の二重帰属」より基礎 づけたあと、帰属の特殊性、帰属変動行為 H処分行為の特殊性、これらを担保するための帰属法の強行性を取り上げ、帰属を起点 とした物権法体系とこれに接合する解釈論上の諸準則につき詳細かつ明確な解説を与えている。しかし、そうであるからか、債権譲渡な どの例外はあるものの、物権法以外、たとえば債務法に組み込まれている不当利得・不法行為法と帰属の関係などについては言及されていない。

「帰属論」を語る際には次の相違に留意しなければならない。第一に、物権債権峻別体系を 前提とするのか、体系再編を構想するのか、第二に、所有権を対象とするのか、物 権一般を対象とするのか、およそ財産すべてを対象とするのか、第三に、体系の抽象的基礎づけのみを志向するのか、解釈論上有用な概念構築までを企図するのかという点である。したがって、これらの点に留意しながら、ヴェスターマン以降の発展をフォローし、立ち入った分析・検討を行ったあと、そこからえられた知見に基づきわが国の議論を考察することが必要である (*1)。

 

■結論

そこで過去の「帰属論」の論点に留意しながら検討をすることで、我が国の帰属論の役割について研究したいと考えている。

 

■結論の吟味

上述の研究を遂行するため,貴学法学部法律学科に入学し,民法を専門に研究している水津太郎教授の研究会に入会することを強く希望する。

 

※1水津太郎(2008)「ドイツ法における財貨帰属の理論」慶應の法律学 民事法 : 慶應義塾創立一五〇年記念法学部論文集 (2008. ) ,p.125- 163

 

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