■ 議論の整理・・・
日本銀行は,15年余に及ぶデフレ経済からの脱却を目指して2%の物価安定目標を掲げ,その実現を図って2013年4月「量的・質的金融緩和政策」を実施した。これは,金融市場における短期金利の目標金利水準を引き下げ,それを実現するために短期資金を供給する政策である。短期金利を下げて家計・企業の資金調達コストを下押しし,個人消費や設備投資等を刺激して需給ギャップの改善を図ることで物価上昇を引き起こすことを狙っている。しかし短期金利が「ゼロ金利」状態にある場合にはそれ以上は下げられないため,金融緩和政策は行き詰る。そこで日本銀行は,下げ余地が残る長期金利をも引き下げることにより追加的金融緩和を推し進める政策を採り,長期国債を大量に買い入れた。これが2014年10月に実施された金融緩和の拡大政策である(*1)。
■ 問題発見・・・
ただし,これはほぼ前例のない政策であることから,国債の買入れがどのように金融資本市場に影響を及ぼし物価安定目標を実現するのか,その波及経路が理解されているとは言い難い。
■ 論証・・・
ここでは,主な3つの波及経路である <1>シグナリング・チャネル,<2>インフレ期待チャネル,<3>ポートフォリオ・リバランス・チャネル,について整理しておく(*2)。シグナリング・チャネルは,日本銀行が金融緩和スタンスへのコミットメントを市場にアナウンスすることで「将来の短期金利の経路」に関する市場の予想を下押しし,それによって長期金利の低下に導く波及経路をいう。インフレ期待チャネルは,実際の物価上昇率の押上げだけでなく,市場・国民による長期の予想インフレ率も押上げて実質長期金利の低下に導く波及経路である。ポートフォリオ・リバランス・チャネルは,国債以外の他の金融資産への投資を促して,投資ポートフォリオの再構成を導く波及経路をいう。しかし,実証分析によれば,企業による資金需要の増加が確認されるなど金利低下の効果は発現しているが,物価安定目標は到達できていないのが現状である(*1)。
■ 結論・・・
そこで,元・日銀政策委員会審議委員にして,マクロ金融政策を専門に研究している貴学総合政策学部の白井さゆり教授に師事し,金融緩和政策により金融市場での流動資金量が増えているにも関わらずインフレ率が期待通りに上昇しない要因について深く掘り下げて研究したいと考える。
■ 結論の吟味・・・
したがって,金融政策研究に最適な環境を求めて,貴学SFCに入学し,白井さゆり研究会に入会することを強く希望する。
(*1) 内閣府.“平成27年度年次経済財政報告”, < https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je15/h01-03.html >
(*2) 白井さゆり.“量的・質的金融緩和政策とポートフォリオ・リバランス”,資本市場No.350, pp.4-11, 2014
コメントを残す