■ 議論の整理・・・
分子生物学におけるセントラルドグマとは,遺伝情報の伝達・発現に関する分子生物学上の一般原理をいう。DNAにコードされた遺伝情報がメッセンジャーRNA(mRNA) に写しとられ(転写),さらにその情報に基づいてタンパク質の生合成が行われる(翻訳)。この重要なプロセスにおいて,RNA はmRNA,リボソームRNA(rRNA)およびトランスファーRNA(tRNA) として機能する。ゲノムプロジェクトの予想外の副産物として,翻訳されないRNA(non-coding RNA:ncRNA)をコードする遺伝子群が大量に発見された。このncRNAはタンパク質に翻訳されてから機能を発現するのではなく,RNA分子のままでなんらかの機能を担うと考えられ,機能性RNAと呼ばれるようになった。その後高速化したトランスクリプトーム解析により,ncRNAの転写が起こっていることも明らかになった。
■ 問題発見・・・
ゲノムから転写されるncRNAは,20 塩基長ほどの短いものから200塩基長を超えるものまであるが,このうち機能性RNAとして脚光を浴びるのがマイクロRNA(microRNA:miRNA)と呼ばれる18〜25塩基長のncRNA群である。miRNAはsmall RNA分子ファミリーに属し,細胞内の遺伝子発現抑制(遺伝子サイレンシング)を引き起こすRNA干渉(RNA interference:RNAi)分子である。代表的なRNAi分子であるsmall interfering RNA(siRNA) が人工的に合成したsmall RNAであるのに対し,miRNAは生来細胞内に存在する。これはすなわち,生体内にはもともと遺伝子サイレンシング機構が備わっていることを意味する。
■ 論証・・・
RNAが生命体における恒常性維持に関与していることから,その破綻は疾患に帰結すると予想される(*2)。しかし,いずれの疾患においても,miRNAの発現亢進や発現低下が,それぞれの疾患の「原因」なのか「結果」なのかという根本的な問題についてはまだ解明されていない(*2)。疾患の発症や増悪に関与するmiRNAが同定されれば,治療薬開発に直結することは間違いない。しかし,その作用機序についてはまだ解明されていない(*1)。
■ 結論・・・
そこで,これまで貴学環境情報学部教授であり,貴学先端生命科学研究所教授も兼任する金井昭夫教授に師事し,miRNAの遺伝子サイレンシング機能の作用機序を解明したいと考えている。
■ 結論の吟味・・・
貴学の金井昭夫教授は,貴学にてRNA研究をリードし,RNA研究の先駆者として著名な学者であり,これまでにRNAに関する研究分野で目覚しい研究成果をあげている(*1),RNA研究の泰斗である。そこで,金井教授のご指導のもとで上述の研究を進めるために,貴学SFCに入学し金井昭夫研究会に入会することを強く希望する。
(*1) 金井昭夫.“21世紀の生命科学におけるRNA研究のインパクト”,KEIO SFC JOURNAL, Vol.15, No.1, pp.204-221, 2015
(*2) 金井昭夫.“ウイルス感染とmicroRNA”,ファルマシア, Vol.47, No.2, pp.125-129, 2011
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