■ 議論の整理・・・
通信技術およびデジタル技術の革新的発展は社会を大きく変えた。自動車もまた例外ではない。社会規模のネットワーク化が浸透するにつれて,自動運転の実用化が見え始めてきた(注:本稿における自動運転とは,車両側で経路計画を作成し,道路に張り巡らされた経路ガイダンスを利用して経路探査しながら,必要に応じて障害物や他車両,歩行者との衝突を回避しつつ,自動操舵して目的地まで到達可能な車両をいう)。車の自動運転を実現するためには,経路計画・探査,走行車線検出,障害物・歩行者検出,周辺車両検出,および自律型衝突回避の各機能の実装が必要である。しかし,わが国において今日標準的な社会インフラは“自動運転に優しい”ものではないため,車両側の機能拡充のみでは自動運転の実用化は実質不可能である。
■ 問題発見・・・
では,自動運転に優しい社会インフラとはいかなるものであろうか。さらには,自動運転を支援する社会インフラはどうあるべきだろうか。各車両にはいかなる機能を持たせればよいだろうか。すなわち,自動走行の実用化に向けての次なる課題は,車両側で実装すべき機能と社会インフラ側で整備すべき機能に仕分けしたうえで,車両側に要求される機能要件と社会インフラに求める機能要件を含めた,包括的なシステム要件の策定であろう。
■ 論証・・・
車の自動運転を実用化するためには,高精度GPS測位による経路検出,ローカル・広域ネットワークによる制御域の区分化,車車間通信・路車間通信を利用した車両相対位置検出および周辺車両との協調運転,レーザー走査式レーダー・ミリ波レーダーやビジョンシステムによる障害物回避などを総動員し,各車両が自律的に判断しながら自動操舵しなければならない。さらに,フェイルセーフ設計思想に基づいてシステム全体の信頼性を高める必要もある。
■ 結論・・・
そこで,貴学環境情報学部の大前学教授に師事し,自動運転の操舵制御に必要な包括的システム要件について,実証的なアプローチで研究を進めたいと考えている。
■ 結論の吟味・・・
大前学教授は,自動走行研究の黎明期から車の自動運転実現に向けた要素技術の研究に携わっている。特に操舵制御の研究では実証実験(*1)~(*4)を数々行っているなど,大前学研究会には上述の研究を可能とする研究環境がある。したがって,私は貴学SFCに入学し,大前学研究会に入会することを強く志望する。
(*1) 大前学,小木津武樹,清水浩.“高精度GPSを用いた構内の自動運転における走行可能領域情報を利用した操舵制御に関する研究”,自動車技術会論文集,Vol.40, No.5, pp.1387-1392, 2009
(*2) 小木津武樹,大前学,清水浩.“自動車の自動運転における管制システムを介した交差点走行制御に関する研究”,自動車技術会論文集,Vol.41, No.6, pp.1273-1278, 2010
(*3) 小木津武樹,奥山美緒,大前学,清水浩.“レーザーレンジファインダを用いたインフラからの車両の状態推定と誘導制御に関する研究”,自動車技術会論文集,Vol.44, No.5, pp.1307-1313, 2013
(*4) 大前学,久松尭史,松下寛治,佐藤周也,岡田成弘.“道路側に設置した認識・制御装置からの誘導による自動車の局所自動運転システムの開発と評価”,自動車技術会論文集,Vol.47, No.3, pp.807-814, 2016
(*5) 大前学.“高齢化社会における自動運転車の役割”,日本老年医学会雑誌,Vol.55, No.2, pp.178-184, 2018
コメントを残す