慶應義塾大学 法学部法律学科 FIT入試 志望理由書 提出例(小山 剛研究会向け)

■議論の整理論

安全への要求が高まるにつれ、「監視社会」という言葉が象徴的に示すように、プライバシーとの衝突が問題となる場面も増えてきた。安全という言葉に込められる種々の要請、あるいは安全によって保全される保護法益は、それ自体は正当なものである。

しかし、いくらそれが正当であっても、その実現の方法いかん によっては、古典的プライバシー権および情報自己決定権に対する、看過しえない重大な侵害をもたらす。もち ろん、個人情報の取得や使用が原理的に許されないというわけではない。犯罪の具体的な嫌疑および具体的危険 に結びつけて、刑事訴訟法や警察法は、一定の範囲および方法による個人関連情報の取得・利用を許容してきた。

そのような犯罪の具体的嫌疑や具体的危険を前提としない個人情報の取得、さらに、これを取得した国家機関がどのような要件の下に他の国家機関に情報の提供を行うことが許されるのかという問題について判断した、ドイツ連邦憲法裁判所の1999年の「戦略的監視」判決である(以下、「本判 決」と呼ぶ)。

本稿で取り上げた判例は、通信の戦略的監視や住居の聴覚的監視など、それ自体が重要な基本権に対する重大な侵害を当然に含意するものであった。そこで、単純な個人情報については上述の判例法理は妥当しないのではないかとの疑問が生じるかもしれない。

しかし、網目スクリーン捜査決定は、国勢調査判決を援用して、「情報技術に固有の処理可能性・結合可能性により、それ自体は重要ではないデータも新たな位置価値を取得しうる」としている(*1)。

 

■問題発見

ここで判例から見る「戦略的監視」における情報自己決定権に与える影響に関する課題について改めて考えてみたい。

 

■論証

本判決において確立された戦略的監視に対する連邦憲法裁判所の基本的態度の特徴は、1戦略的監視による個人関連データ取得の段階に加えて、その後のデータ利用の段階に対しても厳格な憲 法上の要請を課していることにある。また、2その中身として、目的拘束の原則、侵害を授権する法律上の規定 に対する規範明確性・特定性の要請、狭義の比例性が中心的な役割を果たしている。

また、法律の留保が、「侵害」の場合だけなのか、また、侵害留保説を前提とした場合でも、「侵害」とは 何か、どこまで詳細に法律自体で規定する必要があるのか、といった問題がある。これらの点につき、わが国の 実務は、連邦憲法裁判所の要請より著しく低い状態にとどまっているように思われる。後者については、連邦憲法裁判所は特に強い規範特定性・明確性の要請を課している。また、前者については、国家は、自由と安全との間に、適切な調整を見出さなければならない。自由に種々のものがあり、これに対する侵害の態様も多種多様であるように、まさに安全にという概念は定義が困難であり、そこには、種々の法益や要請が込められる。抽象的次元において安全を声高に叫ぶことも、自由を一面的に強調することも適切ではない。

したがって、目的拘束の原則は、目的の変更を一切許容しないわけではないが、目的を変更するには、形式的にも実質 的にも基本法に適合した法律の根拠を持たなければならないことになる。本判決は、第一に、目的変更が基本権上の利 益に優越する一般の利益によって正当化されうるものであり、第二に、新しい目的が情報を受け取る官庁の任務および権限に結びつけて十分に明確な規範として規律されていなければならず、第三に、データ収集が行われた当初の目的と変更後の目的との間に、齪齪があってはならないとされた。本判決において、基本法に適合した法律の根拠について今後とも検討すべきである(*1)。

 

■結論

そこで判例研究を通じて「戦略的監視」における情報自己決定権の役割について研究したいと考えている。

 

■結論の吟味

上述の研究を遂行するため,貴学法学部法律学科に入学し,憲法を専門に研究している小山剛教授の研究会に入会することを強く希望する。

 

※1小山剛(2006)「『戦略的監視』と情報自己決定権 : BVerfGE 100, 313を中心に」法學研究 : 法律・政治・社会 (Journal of law, politics, and sociology). Vol.79, No.6 (2006. 6) ,p.1- 49

 

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