■ 設問
Ⅰ
下線部の「現代の歴史学上の対立」とは,歴史叙述をめぐるどのような対立なのか,80字以上100字以内で述べなさい。
Ⅱ
1931年の満州事変にはじまり,1945年の終戦にいたるまで,日本は一連の軍事的な活動をおこなった。この軍事的な活動が,日本がアジア諸国に対しておこなった「侵略戦争」であったという見解と,欧米列強の経済的圧力に対する「自衛戦争」であったという見解の二つの解釈があるとすれば,こうした解釈の対立は<なぜ>生ずるのか。課題文の内容と設問Ⅰの答えを踏まえて,歴史解釈上の問題として,160字以上200字以内で述べなさい。
Ⅲ
20世紀は,ホロコースト(ナチスによるユダヤ人虐殺),南京虐殺,原爆投下,ポル・ポト政権下の虐殺など,多くのジェノサイド(大量虐殺)がおこなわれた「野蛮な」世紀として後世の人々に記憶されるかもしれない。こうした出来事を理解し叙述するときに,課題文で論じられている歴史的事実と解釈の問題にどう向き合ったらいいのだろうか。あなたの見解を460字以上500字以内で述べなさい。
設問Ⅰ
歴史家が証拠に基づいて選択し解釈した事実を「歴史的事実」とみなす立場と,証拠に拠らず歴史家による首尾一貫した解釈を紡いで構成したテクスト(物語)を「歴史的事実」とみなす立場との対立をいう。(原稿用紙で94字相当)
設問Ⅱ
一方の陣営が,客観的証拠に基づいて「欧米列強による経済的圧力があった」と解釈する「歴史的事実」も,当時日本の軍事行動を「軍拡主義が高じた結果としての侵略戦争だった」と解釈したい他方の陣営にとっては,それが自説を構成するプロットに適合していないために,断じて「歴史的事実」とは認めず,「欧米列強による経済的圧力などなかったのにアジア諸国に侵攻した」と解釈する。これが「解釈の対立」を生んでいる。(原稿用紙で196字相当)
設問Ⅲ
■ 答案構成
議論の整理→ 20世紀に蔓延した歴史家が歴史を創作する流れを断ち切らないかぎり,後世の歴史家の恣意的な解釈により,歴史的事実の認定に齟齬が生じる可能性は高い
問題発見→ 例示された4つのジェノサイドは,(事実認定を含め)一括りにすべき事例ではなく,時代背景や因果関係を含めて分析する必要がある
論証→ 歴史の創作が競争優位や経済的利益を生み出すことに気づいた勢力による恣意的な歴史解釈は排除すべし
解決策or結論→ 歴史を社会科学の一分野に戻すべく,歴史の方法論を改めて見直すべきである
解決策or結論の吟味→ 今の「歴史」はその多くがフィクションである
■ 答案
議論の整理→ 20世紀に蔓延した歴史家が歴史を創作する流れを断ち切らないかぎり,後世の歴史家の恣意的な解釈により,歴史的事実の認定に齟齬が生じる可能性は高い
これまでのように歴史的事実の選択と解釈を歴史家に委ねる風潮が続けば,後世の歴史家の恣意的な解釈にまみれた「20世紀のジェノサイド」が人々に語られる可能性はきわめて高い。
問題発見→ 例示された4つのジェノサイドは,(事実認定を含め)一括りにすべき事例ではなく,時代背景や因果関係を含めて分析する必要がある
そもそも歴史は歴史家のものでもなければ,歴史家に都合のいい解釈で構成される創作物でもない。例示された4つのジェノサイドも,その事実認定を含めて一括りにすべきものではない。
論証→ 歴史の創作が競争優位や経済的利益を生み出すことに気づいた勢力による恣意的な歴史解釈は排除すべし
歴史が社会科学であり続けるためには,歴史家の恣意的な解釈が入り込まないよう,仮説と検証に基づく「科学の方法論」に立ち返り,客観的証拠の積み上げによってのみ歴史的事実を認定する。史料に裏付けされた客観的証拠に基づいて認定された事実を,因果関係に着目して整理し,時系列に並べたものが歴史本来の姿,「歴史の原形」である。
解決策or結論→ 歴史を社会科学の一分野に戻すべく,歴史の方法論を改めて見直すべきである
新たな証拠が発見された場合には臆することなく歴史を修正することもまた重要である。事実認定に差異が生じた際には,その真偽を判断する材料として客観的証拠にとって代るものはない。証拠がなければ,それは検証不能な単なる仮説である。証拠に基づく検証の積み重ねが科学の礎である。
解決策or結論の吟味→ 今の「歴史」はその多くがフィクションである
歴史家によって構成された今日の歴史は,単なるフィクションであると言わざるを得ない。
これまでのように歴史的事実の選択と解釈を歴史家に委ねる風潮が続けば,後世の歴史家の恣意的な解釈にまみれた「20世紀のジェノサイド」が人々に語られる可能性はきわめて高い。
そもそも歴史は歴史家のものでもなければ,歴史家に都合のいい解釈で構成される創作物でもない。例示された4つのジェノサイドも,その事実認定を含めて一括りにすべきものではない。
歴史が社会科学であり続けるためには,歴史家の恣意的な解釈が入り込まないよう,仮説と検証に基づく「科学の方法論」に立ち返り,客観的証拠の積み上げによってのみ歴史的事実を認定する。史料に裏付けされた客観的証拠に基づいて認定された事実を,因果関係に着目して整理し,時系列に並べたものが歴史本来の姿,「歴史の原形」である。
新たな証拠が発見された場合には臆することなく歴史を修正することもまた重要である。事実認定に差異が生じた際には,その真偽を判断する材料として客観的証拠にとって代るものはない。証拠がなければ,それは検証不能な単なる仮説である。証拠に基づく検証の積み重ねが科学の礎である。
歴史家によって構成された今日の歴史は,単なるフィクションであると言わざるを得ない。(原稿用紙で499字相当)
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