- 議論の整理・・・
日本の判例理論において、「医療水準」という概念は、医業に携わる者の注意義務の基準とされている。例えば、子宮筋腫のため入院していた患者に対し輸血が行われた際に、当時の医師の間での慣行に従い、十分な問診や検査等をせずに輸血を行った結果、患者が梅毒に感染したため、損害賠償が請求された事案である東大輸血梅毒事件(最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁)では、医師が慣行に従っていたからといって、必ずしも注意義務を尽くしたことにはならないことや、業務の性質上、医業従事者には経験上要求される最善の注意義務が課されることが、判例上明らかにされた。
- 問題発見・・・
では、医療水準に関する裁判例や学説は、その後どのような歴史的発展をしたのだろうか。
- 論証・・・
私は、これらの問いに答えるには、医療水準論を様々な視点から検討することが重要だと考える。例えば、山口斉昭教授は、医療水準論を要件事実論的視点から再検討することを試みており、医療水準論は、未熟児網膜症訴訟において、新規治療法である光凝固法の存在を前提とした注意義務がどの時点から課されることになるかという形でその理論が形成された点や、一定の社会的事実を証明することにより明らかにされる医療水準が、判例が打ち立てたその定式によって逆に使いづらい概念と化している点などを指摘している[1]。
- 結論・・・
そこで、不法行為法の領域分化と制度論的・立法論的研究や社会関係・リスクの複合化と不法行為法の再構築などを専門に研究し、民法及び医事法の専門家として名高い貴学法学部の山口斉昭教授に師事し、上述の問題点を整理するべく医療分野における不法行為法のあり方について研究を深めたいと考えている。
貴学法学部の山口斉昭研究会が上述の研究を進めるのに最適な研究環境との確信のもと、貴学法学部に入学し山口斉昭研究会に入会することを強く希望する。
[1] 山口斉昭「要件事実論的視点から見た医療水準論について」Law and practice4号(2010年)117-144頁。
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