- 議論の整理
生態系の包括的情報を解析する為の手法として、水や土壌のような環境中に含まれているDNA断片を網羅的に解読するメタバーコーディング解析が近年注目を集めている。Fietolaらが開発したこの手法は、PCR増幅とシーケンシングによって環境生物の塩基配列を復元することで、ある生物種の存在を判定することを可能にする。このような手法は環境を定量的に評価する際の強力なツールとなりうる。
- 問題発見
DNAは比較的安定性の高い物質である為、古代に堆積した地層にも見出すことが可能である。従って、メタバーコーディング解析を古代環境由来の試料に対して行うことで古環境の生態系を明らかにすることができる可能性がある。実際に、山田教授らは湖底地層中の年縞堆積物を上記手法によって解析することを提案し、従来の環境考古学では困難であった定量的な環境評価の手法構築を試みた。この評価系の精度を今までの年縞分析研究の結果と比較して論じることはできないだろうか。
- 論証
従来の年縞研究では生物相や人間活動履歴などの景観要素の復元に限界があったが、環境DNA解析はこれらの要素をカバーするものである。つまり、両手法が表現する要素は異なっており、この新しい手法を従来の研究データとの整合性という文脈で評価することは難しいと考えられる。その為、メタバーコーディング解析により得られるデータのうち、古典的環境考古学研究の手法により既に知られていた要素を抽出することを行いたい。
- 結論
本研究は、古代地球環境をより詳細に再現する為の新手法の確立に貢献できるものである。年縞での解析が可能となれば、他の考古学的試料に対して応用できる可能性もあり、新しい考古学研究領域の端緒となることが期待できるという点で大いにやりがいを感じている。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、水圏の環境考古学研究において、主に年縞を対象とした多くの分析を行ってきた山田教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
- Cho, K. Kashima, K. Seto, K. Yamada, T. Sato, K. Katsuki (2019). Climate change during the Little Ice Age from the Lake Hamana sediment record. Estuarine, Coastal and Shelf Science. 223, 39-49
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