- 議論の整理
老化の進行を抑えることは人類共通の夢である。近年の分子生物学の発展により、アンチエイジングに関わる生体反応の詳細な機構が明らかになりつつある。老化と神経内分泌系は密接に関わっていると考えられており、視床下部環境を変化させることによって特定のホルモン分泌を制御することで老化を抑えることができることを示唆するデータも存在する。千葉教授は食事カロリー制限が神経内分泌系に影響を及ぼしうることに注目し、カロリー制限によって発現量に変化が生じる遺伝子の分析などを行ってきた。
- 問題発見
進化論的な考えに基づくと、カロリー制限下で見られる反応は生物が飢餓などのストレス環境下に適応する為の機構であると考えられる。先行研究では摂食行動に関わる神経回路の一部である視床下部弓状核における各種伝達物質を分析しており、神経ペプチドの一種であるNpyが成長ホルモンによる神経伝達経路を阻害することで抗老化作用に寄与していることが示唆された。このNpyは食事制限時マウスにおける抗腫瘍効果にも関与していることが分かっている。Npyは老化抑制において他にどのような役割を持っているのだろうか。
- 論証
特定のNpy受容体がカイニン酸誘発性の興奮毒性や虚血に対する防御機構に働くことが知られている。カイニン酸受容体の分子構造はAMPA型グルタミン酸受容体と類似しており、これらの興奮性シナプス伝達にNpyが影響を与える可能性が考えられる。これをアンチエイジングという観点から分析したい。なお、研究にあたっては貴研究室の保持するNpy-nullマウスを用いたin vivoの系での実験を行いたい。
- 結論
健康寿命の延伸が課題となる現代社会において、抗老化作用のメカニズムの解明というテーマの需要は大きいと考えられる。この研究はそのようなニーズに応えるような応用研究であるだけでなく、いまだ未知の部分が多い神経伝達システムの機構解明という基礎研究としても大いに意義を持つ。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、分子生物学分野において摂取カロリー制限が老化現象にもたらす影響を中心とした数多くの研究を行ってきた千葉教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
T. Chiba, et al. (2014). A key role for neuropeptide Y in lifespan extension and cancer suppression via dietary restriction. Sci Rep. 4, 4517-4517
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