- 議論の整理
社会が変容するに従い、子育ての在り様も変化してきた。しかし、ヒトは二次的就巣性が備わった生物であり、親からの分離を志向しつつも保護を必要とするというある種の矛盾を本能的に抱えているのである。従って、この矛盾を無視し、社会とのすり合わせのみに終始した子育ての議論には限界がある。動物心理学分野では、ヒトの母子関係を他の霊長類と比較することで、その子育ての生物学的なメカニズムを解き明かしてきた。根ケ山教授らの研究によれば、前述の矛盾を解決する方法としてヒトは特殊なアロマザリングのモデルを有しているという。
- 問題発見
先行研究において、霊長類の母子相互作用は3タイプに分けられ、ヒトは分類上小型のマカク属の種に典型的な低近接・低反発型に含まれると報告されている。しかし、その関係は身体を媒介とした母子間の独特の相互作用によってさらに複雑化されていることが分かった。この結果を踏まえ、根ケ山教授は、母子間のコミュニケーションにおける第三項の介在にヒトの子育ての独自性を見出した。それでは、この特殊な母子関係にアロマザリングがいかにして組み込まれるのだろうか。
- 論証
アロマザリングの目的が母親の身体機能の代行であるという点に着目すれば、これは授乳に関連する行為において最も大きな役割を持つことが推察される。実際に桶谷式断乳のような専門家の助言に支えられて行われる離乳スタイルが存在しており、一定の効果をあげている。しかし乳児の食事を補助することだけが子育てではない。本研究では、寝かしつけや遊びのような場面におけるアロマザリングシステムの応用例について検討を行いたいと考えている。
- 結論
家族という単位が細分化されていった結果、母子のみの密着育児になりやすい現代の子育てにこそ、確立されたアロマザリングシステムが必要であると考える。本研究が母子ともに負担の少ない子育ての仕組みを議論する契機になることを期待している。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、発達心理学分野においてヒトの母子関係の発達を身体性という観点から研究してきた根ケ山教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
根ケ山光一 (2016) 「ヒトにおける身体化された母子関係の発達」『動物心理学研究』 66(1), 47-51
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