- 議論の整理
移民研究において、「ディアスポラ」という表現が指す集団が注目されている。彼らは一般的な移民の定義からは区別され、移民が祖国とも移住先ともある程度距離を置くのに対し、ディアスポラは移住先で自らの言語や文化を維持しようとする。この概念は1960年代のアフリカ系アメリカ人たちのコミュニティ形成運動で使われ始めたものであるが、日本にもこれに該当する集団が存在し、その代表例として沖縄人ディアスポラを挙げることができる。海外在住の沖縄出身者は日系人でありながら日系社会の中で他者として扱われるという経験を経ながら、自らのアイデンティティを確立していった。
- 問題発見
ここで興味深いのは、沖縄県民は沖縄ディアスポラを「県系人」という特殊な表現を用いて表していることである。森本教授は、沖縄にとって移民が単なる日系人ではなく、それ以上に近しい存在であることを象徴的に表すのが「県系人」という言葉であると述べている。そして、調査によって沖縄と移民との紐帯を歴史的に検討することを行った。この事例研究から10年ほど経った現在、この絆はどのような形で次世代へと継承されていったのだろうか。
- 論証
あらゆる移民集団について言えることではあるが、世代の進行とともに彼らは現地のエスニック集団に溶け込んでいき、共同体の異種混交性が増していくことが考えられる。つまり、一度確立したアイデンティティを再度定義しなおす為の教育が必要とされるのである。その意味で、事例研究においては各国の海外県人会を対象に、所属する人々が子世代に対して行っている教育の聞き取り調査を行いたい。
- 結論
世界中で社会的不寛容が跋扈しつつある現代においてマイノリティである移民が暮らしやすい社会を形成するうえで、沖縄と「県系人」との紐帯は新たな知見を与えるものであると期待している。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、日本を代表する移民研究者として数多くの調査を行ってきた森本教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
森本豊富 (2010) 「沖縄と「県系人」との紐帯—沖縄はいかにして移民を支援し、移民は郷里を助けてきたのか」『人間科学研究』 23(2), 221-237
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