- 議論の整理
弱者が声を上げることのできる社会を建設していく為に何が必要なのだろうか。この問題を考える際、第二次世界大戦後のドイツ社会が経験した「過去の克服」の過程は示唆に富んだ事例である。戦争被害者たちの声は歴史を通じて常に聞き入れられていた訳ではない。戦争犯罪への賠償を求める外部との衝突を起こしながらドイツ社会は成熟し、弱者もまた声を上げる力を身につけたのである。このような「過去の克服」への動きは1968年の学生叛乱にその端緒を見ることができる。
- 問題発見
村上教授はドイツと日本の「68年世代」を比較し、親世代の加害責任を真っ向から問い直そうとし、社会全体を巻き込んだドイツに比べて、戦争経験が無いことを理由に議論を躱そうとするような日本の「68年世代」の姿勢は防衛的であると主張する。そして、両者の意識の相違を生み出したものが、「外部からの圧力」であると論じた。つまり、ドイツに対する強い「外圧」が果たした役割を検討したのである。ここで「外圧」として述べられている事例で興味深いのは、ドイツ社会内部から生じた圧力である。国家に備わった自浄作用ともいうべき彼らの良心はいかにして形成されていったのだろうか。
- 論証
上述の論考で具体的に述べられていたのは、NASDAP政権時代にドイツから亡命し、その後戻らなかった者達である。彼らの多くは政治的対立から亡命を行ったのであるが、ここで重視すべきは亡命の意図ではなく、彼ら自身のドイツ語言語能力と知識である。その能力を以てして、ドイツ社会に圧力をかけ続けたことはいうまでもない。彼らの残した文献を読み解いていくことで与えた影響を詳細に検討したい。
- 結論
この研究は日本が「過去の克服」を成し遂げ、近隣諸国との関係を改善していく為に参考となる知見を与えることが期待できる。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、日本におけるドイツ社会文化研究者として、社会的な抑圧に対する抵抗運動を中心として論じてきた村上教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
村上公子 (2005)「過去の克服と外圧一ある比較の試み一」『人間科学研究』 18(1), 81-100
コメントを残す