■議論の整理
戦後に入って、技術が進展していく中、情報媒体も多様化してきた。テレビが流行し始め、人々は安価な映画を楽しむようになった。また表現の制限も、日本国ではない、GHQの管理下の下での新しい検閲が施され、伝達されていくことになる。
■問題発見
戦前・戦中とはまた異なる表現の方法が求められるようになる中で、メディアの変容と言う物質的な側面にいかに文学者は対応し、検閲制度の変更の中でどのように表現していったのか。
■論証
メディアの変容の中で、とりわけ重要になってくるのは、テレビやラジオなどの視聴覚技術の発展である。ラジオからの音声が人々に訴えかけるメッセージは、文章を読む行為とはまた異なり、身体の情動を掻き立てることができる。またテレビは、お茶の間のスターという一種の偶像を作る装置としても作用する。その中でいかにスターダムが形成され、誤解と了解に支えられていくのかというさまを自覚的に描いたものに安部公房の「チャンピオン」という作品がある。ボクサーのスターダムがラジオやテレビの中でどのように形成されていくのか(しまうのか)を小説及び映画という複数のメディア媒体の中で描こうとした、メディアとは何かを考えさせられる作品だ※1。
■結論
表現が新しいメディアの影響を受ける一方、検閲にも影響を受けることになる。実質GHQの支配下に置かれた検閲においては、原爆表象を左右する側面がある。原爆はアメリカが落としたものだ。しかし、それによって長らく天皇の支配下だった日本は解放されたととることもできる。原爆表象はある意味で、アメリカを誇示するための象徴だったのだ※2。
■結論の吟味
戦前・戦中から活発だった民衆レベルのミニコミ誌やサークル活動は、検閲といかに戦い、自分たちの思想を形作っていったかを検証するうえで有益な媒体だと言える。上記の原爆表象に対し、アメリカの検閲の中でいかに対抗するか。思想の自由、表現の自由が確保されていない時代に思想家がどのような思想をメディアや権力の影響を受けながら紡いでいったのか。そしてそれが今の人文学に影響を与え、社会に根付いているんのか。今一度検証し、言葉による運動の内実を研究してみたいと考えている。以上のことを貴学で考察してみたいと考え、入学を強く希望する。
※1鳥羽耕史「メディア実験と他者の声――安部公房「チャンピオン」と「時の崖」」早稲田大学国文学会『国文学研究』(166)2012
※2鳥羽耕史「冷戦下の『希望(エスポワール)』――原子力のグローバル化との対峙」日本学報(33) 2014
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