■議論の整理
2018年3月に東京都目黒区で5歳の女児が虐待死した事件をきっかけに、大きく児童虐待に関する注目が集まった。これをきっかけに2019年には当該法や児童福祉法の改正法案が提案され、近く2020年春には可決する見通しが立っている。
■問題発見
児童相談所や福祉施設の構造的問題を改革しようとするいわゆるセーフティネットの保障が叫ばれる一方で、そもそも児童虐待をしてしまう「保護者」への問題意識が過熱した※1。なぜ保護者はわが子に対して児童虐待をしてしまうのか。肝要なのは虐待が起こってからの対応策を考えることではなく、親が子どもに虐待をしてしまう要因を究明し、未然に防ぐ策を講じることだ。
■論証
親が子どもに対して児童虐待を行ってしまう要因を分析するものとして環境要因と、遺伝要因の二つがあげられる。教育格差が新たな教育格差を再生産してしまう議論とおよそ時を同じくして、過去に虐待を受けた子どもが、親になって、また自分の子どもに虐待を与えてしまうという構造は、社会的弱者カテゴリーである様々な因子と相関関係をなしているが、絶対条件として作用するわけではない。また遺伝要因も同様で、二重らせん構造上のどこかにある虐待傾向に活性的に働く遺伝子があるから親になったときに虐待を働く傾向が強いと言い切れるわけでもない。大切なのは、虐待の問題は複合的な相互作用によるものだという視点を忘れないことである。※2
■結論
今一度環境要因と遺伝要因を相対化・厳密化するために、「児童虐待を受けたことがない人が児童虐待をしてしまう要因」を対照的に分析してみたい。そうすればより構造的な児童虐待の要因を見つけ出すことができるだろう。
■結論の吟味
そうすれば、現代の家族が抱えている問題が広くあぶりだされてくるかもしれない。たとえば、核家族になってから、児童虐待が増加したのかどうか。保護者が一世代しかいない今の現状を打破すべく、拡大家族という装置がもしかしたら有効なのかを、貴学に入学してから検証し、子どもたちの未来を守りたい。
※1鈴木亜由美(厚生労働委員会調査室)「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等改正案 ― 主な内容と論点 ―」2019.
※2梅本洋「児童虐待の世代間連鎖と遺伝-環境相互作用」『早稲田大学大学院文学研究科紀要』64巻 2019
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