- 議論の整理
20世紀初頭にイギリスで起こったモダニズム文学は科学的合理主義が浸透した世界で、知識をつけすぎた近代の人間が抱える自己矛盾を乗り越えようとする動きであると解釈できる。モダニズム作家たちは都市生活の現実を描き出すプロットと既成の表現手法の否定を特徴とするように、そこには現実を見据えたからこそ生じる内からの芸術衝動に表現の可能性を見出していた。平出はこのようなモダニズムの隆盛の類型としてルネサンスとロマン主義を挙げている。
- 問題発見
これら三者に共通するのは既存のロゴス偏重のパラダイムへの反発であり、人間の根源的衝動であるエロスを重視する点であると平出は論じる。その背景には、近代西洋文明が準拠するキリスト教的世界観と古代ギリシアの世界観という対立する二つの世界観であり、いつの時代においても失われた古代ギリシア文明は西洋文明の憧憬の対象となっていたという関係性がある。そのような関係性から、ルネサンス、ロマン主義、モダニズムの作家たちは現実のロゴス的世界観の中に生きつつも自然や根源的なものが支配する世界を目指そうとするという曖昧性を帯びている。しかし、このようなモダニズム作家たちの態度は一括りにしてまとめられるものなのだろうか。
- 論証
曖昧性を特徴とするモダニズムは、そのアンビバレントな性質ゆえに横のつながりを見出す事が困難である。2000年代以降には「新モダニズム研究」の名のもとにモダニズムのさらなる細分化が図られたこともこれが一因であろう。概して、モダニズム作家はアウトサイダー的出自を特徴とすると言われているが、同時代に活躍した作家同士の間で共有されたものは存在するのだろうか。私はこの点について研究を行う為に、イギリスのモダニズム作家であるボウエンの小説を題材に、他の作家からの影響を考察したいと考えている。
- 結論
上記研究を行うにあたって、これまで貴学において英国文学におけるモダニズムを研究してきた松本教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
平出昌嗣 (2002). 「イギリス小説のモダニズム概観 (2)」 『千葉大学教育学部研究紀要』 50, 233-243
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