上智大学 法学部 法律学科 編入学試験 2018年 小論文 解答例

■ 設問

平成20年頃までは,傷害保険に加入する際には,同種の保険にすでに加入しているかどうかについて保険会社に告知しなければならず,この義務に加入者が故意または重大な過失によって違反した場合には,加入者が傷害を負うなどの事故が生じたとしても,保険会社は保険契約を解除すること(保険契約の効力を一方的に消滅させること)によって保険金を支払わなくてよい旨の条項が傷害保険契約において定められていることが一般的でした。

この条項の意味について,ある判決はおおむね次のように述べています。

「保険加入者が重複する保険契約について告知しなければならないという義務を保険契約において定め,その『故意または重大な過失』による違反に対し,保険契約の解除という効果を認めている趣旨は,保険契約が重複していることにより保険金額の総額が,不相当に高額になる場合には,加入者がわざと事故をおこして保険金を取得しようとする危険が高いという経験則に基づき,保険会社としては,このような危険性の高い保険契約の重複を回避するためであると考えられる。しかし,保険加入者が複数の保険に加入することは決して珍しいことではないにもかかわらず,重複する保険契約を告知しなければならないという義務の存在と,これに違反した場合の保険契約の解除という効果の大きさについて一般に知られているとはいい難い。

 したがって,保険会社がこの義務の違反により保険契約を解除できるのは,保険加入者が故意または重大な過失により告知を怠っただけでは足りず,不法に保険金を得る目的で重複保険をしたなど,保険契約を解除し,保険金の支払を拒絶するにつき正当な事由があることを保険会社が証明することができたときであると解するのが相当である」

*上記は,東京地方裁判所で平成15年5月12日になされた判決の一部を言葉を改めるなどしつつ引用したものです。

この判決の論理にはどのような特徴があるでしょうか? またその論理のあり方やそこから導かれた結論についてあなたはどのように評価しますか? あなたが考えたことを800字程度で自由に論じてください。

 

■ 答案構成

議論の整理→ 重複加入による犯罪成立の立証責任を保険会社に課す

問題発見→ 判決の意義

論証→ 保険会社による保険金不払い事例への司法による反省

解決策or結論→ 保険加入者の利益を保護する司法判断を高く評価したい

解決策or結論の吟味→ 保険契約に与えた影響は大である

 

■ 答案

議論の整理→ 重複加入による犯罪成立の立証責任を保険会社に課す

この判決は,保険加入者の利益を保護するため,保険金受領による犯罪成立の立証責任を保険会社に課すという巧みな論理構成で保険会社の商業的エゴイズムを排している点に特徴がある。すなわち,(A)重複する保険契約の告知義務と,(B)告知義務違反時の保険契約解除(つまり保険金不払い)という効果の大きさが,いずれも広く知られているとは言い難いという裁判官の見識を根拠とし,さらに,保険加入者に課された重複加入の告知義務は本来犯罪予防を目的とするものであるとの注釈を裁判官が加えたうえで,その前提に立って,保険会社が保険契約を解除できるのは,(イ)保険加入者による重複加入の不告知が故意または重過失によるものであり,かつ,(ロ)当該重複加入により犯罪が構成されていることを保険会社が立証できたとき,に限定している。

問題発見→ 判決の意義

この判決には特筆すべき意義がある。

論証→ 保険会社による保険金不払い事例への司法による反省

この判決は,不当に高額な保険金を得る目的で重複加入していた場合のみならず,傷害の程度に相応な保険金であったとしても,告知義務違反を盾にして保険会社が保険金の支払いを拒否してきた事例を熟慮した,保険会社による保険金不払い事由に制限を加える判決となった。今では傷害保険に限らず,保険契約締結時には重要事項説明の実施と,その説明を受けたことの確認が義務化されている。免責事項や保険金が支払われないケースを説明する但し書きなどの逆訴求効果を有する契約条件については,保険加入者が気づきにくいよう意図的に表記を変えていたことへの戒めがその背景にある。

解決策or結論→ 保険加入者の利益を保護する司法判断を高く評価したい

この判決は,保険契約の約定事項を逐語的に解釈するのではなく,金融商品である保険の本来の機能や目的を鑑みて,保険契約に補完的条件を付加している。そこからは,保険加入者(消費者)の保護・救済を第一義とする司法の意思が読み取れる。これが司法の本来の存在意義であると考える。

解決策or結論の吟味→ 保険契約に与えた影響は大である

 

この判決は,保険加入者の利益を保護するため,保険金受領による犯罪成立の立証責任を保険会社に課すという巧みな論理構成で保険会社の商業的エゴイズムを排している点に特徴がある。すなわち,(A)重複する保険契約の告知義務と,(B)告知義務違反時の保険契約解除(つまり保険金不払い)という効果の大きさが,いずれも広く知られているとは言い難いという裁判官の見識を根拠とし,さらに,保険加入者に課された重複加入の告知義務は本来犯罪予防を目的とするものであるとの注釈を裁判官が加えたうえで,その前提に立って,保険会社が保険契約を解除できるのは,(イ)保険加入者による重複加入の不告知が故意または重過失によるものであり,かつ,(ロ)当該重複加入により犯罪が構成されていることを保険会社が立証できたとき,に限定している。

この判決には特筆すべき意義がある。

この判決は,不当に高額な保険金を得る目的で重複加入していた場合のみならず,傷害の程度に相応な保険金であったとしても,告知義務違反を盾にして保険会社が保険金の支払いを拒否してきた事例を熟慮した,保険会社による保険金不払い事由に制限を加える判決となった。今では傷害保険に限らず,保険契約締結時には重要事項説明の実施と,その説明を受けたことの確認が義務化されている。免責事項や保険金が支払われないケースを説明する但し書きなどの逆訴求効果を有する契約条件については,保険加入者が気づきにくいよう意図的に表記を変えていたことへの戒めがその背景にある。

この判決は,保険契約の約定事項を逐語的に解釈するのではなく,金融商品である保険の本来の機能や目的を鑑みて,保険契約に補完的条件を付加している。そこからは,保険加入者(消費者)の保護・救済を第一義とする司法の意思が読み取れる。これが司法の本来の存在意義であると考える。(766字)

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