■ 設問
次の文章はスペインの哲学者であるホセ・オルテガ・イ・ガセットが1929年に著した『大衆の反逆』の一部(邦訳)である。これを読んで,下線部「歴史的至上権が崩壊」するとはどういうことなのか,20世紀初頭から半ばにかけての国際関係の変容を念頭に置きながら論じなさい。(800字)
・・・世界は今日,重大なる道徳的退廃におちいっている。そしてこの退廃はさまざまな兆候のなかでも特に,途方もない大衆の反逆によって明らかにされており,その起源はヨーロッパの道徳的退廃のなかにある。ヨーロッパの退廃には多くの原因があるが,その主要な原因の一つは,かつてヨーロッパ大陸が自己およびその他の世界の上に及ぼしていた権力が移動したことである。つまり,ヨーロッパは自分が支配しているかどうかに確信が持てず,その他の世界は自分が支配されているかどうかに確信が持てないのである。要するに,歴史的至上権が崩壊したのである。
(オルテガ著 桑名一博訳『大衆の反逆』白水ブックス2009年,291-292頁より抜粋)
■ 答案構成
議論の整理→ オルテガの主張
問題発見→ ヨーロッパの(道徳的)退廃とは何を意味するのか
論証→ 20世紀の2つの世界大戦が当時の欧米諸国の国際関係を再構築した
解決策or結論→ 歴史的至上権の崩壊とはヨーロッパが植民地と覇権を失ったこと
解決策or結論の吟味→ 今日のヨーロッパとアメリカの国際的立ち位置を再考
■ 答案
議論の整理→ オルテガの主張
所与の文章において,オルテガは,20世紀初頭にヨーロッパ各国で相次いだ大衆の反逆はヨーロッパにおける道徳的退廃の兆候のひとつであり,ヨーロッパの退廃は世界の支配者としての地位をヨーロッパが失ったことによりもたらされたものであると分析している。
問題発見→ ヨーロッパの(道徳的)退廃とは何を意味するのか
それでは,この「ヨーロッパの退廃」や「世界の支配者としての地位」とは具体的には何を示すのであろうか。
論証→ 20世紀の2つの世界大戦が当時の欧米諸国の国際関係を再構築した
その答えを探すべく,20世紀初頭から半ばにかけての国際関係の変容を振り返ってみる。この期間に勃発した2つの世界大戦は,国際社会におけるヨーロッパの支配的地位を大きく変えるきっかけとなった。つまり,1914年に勃発した第一次大戦は,ヨーロッパの国々において市民革命や帝国解体などの政治的変革をもたらした。さらに,1939年に勃発した第二次大戦は,アメリカの覇権国としての国際的地位を確立するとともに,ヨーロッパの植民地に独立を促す契機となった。つまり,ヨーロッパの退廃とは,「世界の覇権の喪失」,ならびに,宗主国として支配してきた植民地から経済的利益を享受できなくなる「二国間における地位の低下」を意味する。さらにこれは,支配する側・される側の社会的境界線があいまいになり,宗主国の社会構造的優越権をも同時に喪失したことを含意する。すなわち,20世紀の2つの世界大戦は,世界の覇権がヨーロッパからアメリカへ移動する転換点となったのである。
解決策or結論→ 歴史的至上権の崩壊とはヨーロッパが植民地と覇権を失ったこと
しかるに,下線部「歴史的至上権」とは,政治経済的統治機構のみならず社会的心理上においても,宗主国が植民地に対して有する支配権を意味し,「歴史的至上権の崩壊」とは,国際関係の変容などの外部要因による,植民地の支配権の消滅や喪失を意味すると解するのが妥当であろう。
解決策or結論の吟味→ 今日のヨーロッパとアメリカの国際的立ち位置を再考
今日のヨーロッパおよびアメリカの国際的立ち位置を念頭にオルテガの主張を読み解くならば,この解釈に疑問の余地はなかろう。
所与の文章において,オルテガは,20世紀初頭にヨーロッパ各国で相次いだ大衆の反逆はヨーロッパにおける道徳的退廃の兆候のひとつであり,ヨーロッパの退廃は世界の支配者としての地位をヨーロッパが失ったことによりもたらされたものであると分析している。
それでは,この「ヨーロッパの退廃」や「世界の支配者としての地位」とは具体的には何を示すのであろうか。
その答えを探すべく,20世紀初頭から半ばにかけての国際関係の変容を振り返ってみる。この期間に勃発した2つの世界大戦は,国際社会におけるヨーロッパの支配的地位を大きく変えるきっかけとなった。つまり,1914年に勃発した第一次大戦は,ヨーロッパの国々において市民革命や帝国解体などの政治的変革をもたらした。さらに,1939年に勃発した第二次大戦は,アメリカの覇権国としての国際的地位を確立するとともに,ヨーロッパの植民地に独立を促す契機となった。つまり,ヨーロッパの退廃とは,「世界の覇権の喪失」,ならびに,宗主国として支配してきた植民地から経済的利益を享受できなくなる「二国間における地位の低下」を意味する。さらにこれは,支配する側・される側の社会的境界線があいまいになり,宗主国の社会構造的優越権をも同時に喪失したことを含意する。すなわち,20世紀の2つの世界大戦は,世界の覇権がヨーロッパからアメリカへ移動する転換点となったのである。
しかるに,下線部「歴史的至上権」とは,政治経済的統治機構のみならず社会的心理上においても,宗主国が植民地に対して有する支配権を意味し,「歴史的至上権の崩壊」とは,国際関係の変容などの外部要因による,植民地の支配権の消滅や喪失を意味すると解するのが妥当であろう。
今日のヨーロッパおよびアメリカの国際的立ち位置を念頭にオルテガの主張を読み解くならば,この解釈に疑問の余地はなかろう。(769字)
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