■ 議論の整理・・・
微生物は,二面性を有する生物である。すなわち,物質循環や環境保全において重要な役割を担う一方で,さまざまな感染症を引き起こし人間や動植物にとっての脅威となる。そこで,生物学的データを情報科学の手法によって解析するバイオインフォマティクスを利用して,微生物についての理解を深める研究が進んでいる。特に近年は,微生物のゲノム比較解析により,ゲノム情報と表現型の関連性を明らかにする研究が盛んである。宿主特異性や病原性の異なる近縁細菌のゲノム比較解析によって,宿主環境への適応性や病原メカニズムの理解に有効な情報を得ることができるためである。この他にも,物質循環において重要な役割を果たす細菌のゲノム解析から物質代謝に関与している遺伝子を特定する研究や,病原細菌のゲノム解析から細菌が持つ病原性や薬剤耐性に関与している遺伝子を特定する研究もある(*1)。現在,微生物の網羅的な解析はゲノム解析にとどまらず,トランスクリプトーム,プロテオーム,メタボロームなどを含めたオミクス解析にまで拡大している。
■ 問題発見・・・
ところで,染色体外DNAであるプラスミドは,微生物間を水平伝播することが知られており,宿主である微生物は他の微生物からプラスミドを受け取ることで新しい機能を獲得していく。ここにも人間や動植物にとって脅威となりうる要素がある。
■ 論証・・・
プラスミドは,抗生物質耐性の他に,難分解性物質の分解や重金属耐性など,さまざまな機能を発現する遺伝子をコードしている。水平伝播するプラスミドが狭宿主域プラスミドであればその影響が限定され広範囲に及ぶことがないため問題にはならない。しかし,広宿主域プラスミドであれば,ある微生物が獲得した抗生物質耐性が他の微生物に次々と伝播する可能性がある。そこで,プラスミドの宿主域を予測し,水平伝播経路を推定し遮断することができれば,抗生物質耐性の拡散を最小限に限定でき,抗生物質の薬効を維持することができる。
■ 結論・・・
そこで,貴学環境情報学部にて微生物バイオインフォマティクスを専門に研究している鈴木治夫准教授に師事し,ゲノム情報から微生物の有効利用を可能にするような研究がしたいと考えている。
■ 結論の吟味・・・
鈴木治夫准教授は,微生物のゲノム解析について数々の研究実績があり,鈴木治夫研究会には上述の研究に最適な環境がある。したがって,私は貴学SFCに入学し,鈴木治夫研究会に入会することを強く志望する。
(*1) 鈴木治夫.< https://www.iab.keio.ac.jp/research/highlight/interview/201704260933.html >
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