慶應義塾大学 法学部法律学科 FIT入試 志望理由書 提出例(Philipp Osten研究会向け)

■議論の整理論

2015年および2016年の二度にわたる法改正を通じてオーストリア刑法典では国際刑事裁判所(International Criminal Court: ICC)の対象犯罪等に関する規定が導入された。史上初の常設の国際刑事法廷であるICCは、集団殺害犯罪(ジェノサイド罪)、人道に対する犯罪、戦争犯罪および侵略犯罪について管轄権を有する。

これらの犯罪は「国際社会全体の関心事である 最も重大な犯罪」であるとされ(規程前文および規程五条等)、「中核犯罪」とも称される。ICCは各国の国内刑事裁判権を「補完する」裁判所として位置づけられている。換言すれば、中核犯罪の訴追は第一次的には国家によって担われ、国家が中核犯罪の「捜査又は訴追を真に行う意思又は能力がない」場合にのみ、ICCがこれを補完的に訴追・処罰するという構造が採用されている。また、 ICCは、中核犯罪の訴追・処罰の効果的履行を担保するため、加盟国に対して、ICCに対する被疑者の身柄 引渡し等の協力措置をとることができるよう、国内法を整備することを義務づけている。

以上のようなICCの法的枠組みを受けて、加盟国の中には、ICCとの協力に関する手続法の整備のみを行う、いわゆるミニマリスト方式を採用した国(日本等)と、手続法に加えて実体法面においても、中核犯罪を「中核犯罪として」自国で訴追・処罰できるようそれらを国内法化する、いわゆるマクシマリスト方式を採用した国(ドイツ、スイス等)の双方が存在する。そして、近年オーストリアはマクシマリスト方式への「転換」を果たした(*1)。

 

■問題発見

ここで,オーストラリアがマクシマリスト方式に転換した背景における課題について改めて考えてみたい。

 

■論証

オーストリア刑法上、集団殺害犯罪を除いて、2014年までは中核犯罪に関する規定は存在しなかった。なお、少なくともICC規程上、加盟国は、中核犯罪を「中核犯罪として」国内刑法上制定することまでは求められていない。また、オーストリアはジュネーヴ諸条約等の批准に際して、国際人道法に対する重大な違反行為は従来の犯罪構成要件で対応可能であると述べていたとされ、中核犯罪との関係でも、同様の理由で国内法化を見送るとの選択肢は充分に考えられるものであった。しかし、オーストリアは2008年から政府プログラムの一環としてICC対象犯罪等の立法計画を立ち上げ、2014年に刑法および刑事訴訟法の改正法が公布された。これにより、人道に対する犯罪、戦争犯罪およびICC特有の刑法総則規定に対応する規定等が刑法典に追加された。

オーストリでは比較的近時になってからマクシマリスト方式への「転換」を果たした。このような態度は、ミニマリスト方式を固持する日本とは対照的といえる。オーストリアの立法経緯について、とりわけ、ICC規程の侵略犯罪改正の発効が間近に迫っている現在、中核犯罪の国内法化の必要性を再検討する意義はとりわけ大きいものと考えられる。

したがって、同国における立法経緯を参照し、立法に至る動機を明らかにすることができれば、それはミニマリスト方式にとどまる日本にとっても、中核犯罪の国内法化を再検討する契機を与えるものとなりえよう。それゆえ、日本としても、オーストリアやドイツといった、侵略犯罪を含めて積極的な国内立法を行っている国々の動向を注視していくことが求められるように思われる。また、オーストリアの規定は、ドイツやスイスと同様に、ICC規程の条文をそのまま逐語的に受容するのではなく、修正しつつ導入を図っている。もっとも、同国の規定は、ドイツやスイスといった他のドイツ語圏諸国の規定と多くの点で類似する一方、細部においては相違もみられる。比較的近い法文化を有するこれら三国間の規定の異同を検討することは、日本が将来的な中核犯罪の立法を検討する際の比較法的検証にあたっても、好個の素材を提供するものといえよう。以上の理由から、今後もオーストリアの規定の運用状況等を注視し、さらに検討を深めていく必要があると思われる(*1)。

 

■結論

そこでオーストリアの規定の運用状況を検討することで、日本が将来的な中核犯罪の立法を検討する際の適用可能性について研究したいと考えている。

 

■結論の吟味

上述の研究を遂行するため,貴学法学部法律学科に入学し,知的財産法を専門に研究しているPhilipp Osten教授の研究会に入会することを強く希望する。

 

※1Philipp Oste,横濱和弥(2017)「オーストリアにおける中核犯罪の国内法化」法學研究 : 法律・政治・社会 (Journal of law, politics, and sociology). Vol.90, No.2 (2017. 2) ,p.31- 50

 

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