慶應義塾大学 法学部政治学科 FIT入試 志望理由書 提出例(田所 昌幸研究会向け)

■議論の整理論

経済学には大不況や低成長に何らかの予測や解決を常に期待される。また経済分析や経済予測は、ビジネスに応用すれば巨大な力を生む。また経済分析や経済予測はそれ自身巨大なビジネスであり、その実績次第で社会的評価も左右される。もし予測ができるのなら、大きな経済的災禍、たとえば不況や金融恐慌やハイパーインフレーションを避けるにはどうすればよいのかという処方箋も経済学には期待される。経済学の危機は1930年代の世界大恐慌時、また1970年代の世界経済の動揺期にも語られた。今日経済「学」が危機にあるとされるのも、2008年のリーマンショック以来の主要国での金融・経済の一大変調、言い換えれば「経済」の危機に、経済学が程度の差はあれ「責任」があるという前提があるからである。

一方で、政治学には経済学のように正確な予測を提供することは期待されていない。確かに選挙結果の予測は、多くの専門家が取り組んでいるし、国際情勢の予測は、情報機関のみならず様々な研究機関やマスコミでも盛んに行われている。だが大戦争の勃発や何らかの政治的混乱を予測しそれを未然に防げなかったことに、政治学が責任を取るべきだという考え方は、限定的である。なぜなら、標準化の度合いは経済学に比して小さく、各研究者間での共通認識の相異は相当大きいからである。

しかし、グローバル経済の市場化が進行すればするほど、その市場経済の自己調整機能が喪失し、誰の目にも外部から強力なガバナンスを注入するよう求められるのが明らかになるのが、金融危機である。そのような場合、最後の貸し手という市場外の機能によって市場を安定させる必つまり市場経済がグローバルに拡大したことによって、それまでより非常に政治的に異質なプレーヤーがグローバルな市場経済に参加したため、それまで「外生的」とされていた非市場的な影響を市場経済がより大きく 受けるようになっている(*1)。

 

■問題発見

ここで,グローバル経済の市場化からの金融危機に対処する際に期待される経済学と政治学の役割に対する課題について改めて考えてみたい。

 

■論証

経済学には政治学では見られない分析手法が蓄積されてきた。その典型的なものは数学や統計学的な手法である。そのため観察可能な現象の純粋な分 析的知識の体系、あるいは実証的で科学的な学問として、経済学は自然科学に近い知的な権威を誇ってきた。 経済学がこのような実証的な分析的学問となったのは、歴史的にみれば比較的最近のことである。

しかし、実証的な分析手法には限界が存在する。たとえば家計内を支配しているのは交換ではなく、贈与や共有である。生計をともにするということは、とりもなおさず所得もリス クも共有するということである。NGOをはじめとする非営利部門の重要性も、言うまでもないのであろう。贈 与といった社会的メカニズムの役割も、社会でおよそ無視できるようなものではないし、今後その役割はむしろ拡大することも考えられる。こう考えると、市場諸力は普遍的に世界を支配している物理学の力学とは異なり、 歴史的社会制度であり、万古不易の物理法則が支配する空間とは異なるものなのである。

一方、経済学の関心が市場システムの分析に中心があることに対して、政治学の関心は伝統的には制度や規範の他に、思想や歴史といった多様な要素に渡る。グローバルな金融市場の役割が拡大してその影響が世界中の人々の生活を左右するようになるにつれて、市場の失敗である金融危機も、ますます大きな規模で頻度を増して起こっている。非市場的領域からの反作用は、市場の空間的拡大による政治的なものに留まるものではない。

政治学の世界で市場に相当するような便利な孤立系を、政党システムや国家間システムに想定することは可能である。しかし市場システムに比べればシステム外部からの影響を遙かに受けやすく、同様の研究手法を採用しても限界が存在する。したがって、政治学がグローバル経済の市場化を分析する必要がある経済学に対して、新たな分析手法の視点を提供することについて改めて検討すべきである (*1)。

 

■結論

そこで,政治学として国家間システム、思想や歴史を焦点に当て、グローバル経済の市場化を分析する活用フレームワークを考案し、政治学と経済学が融合した金融危機の分析手法について研究したいと考えている。

 

■結論の吟味

上述の研究を遂行するため,貴学法学部政治学科に入学し,国際政治学や国際政治経済学を専門に研究している田所昌幸教授の研究会に入会することを強く希望する。

 

※1田所昌幸(2016)「政治学にとっての経済学の成果と限界」法學研究 : 法律・政治・社会 (Journal of law, politics, and sociology). Vol.89, No.2 (2016. 2) ,p.89- 111

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