慶應義塾大学 FIT入試第2次選考 法学部法律学科 2011年論述問題 解答例

2011年度FIT入試第2次選考概要(法律学科)

1.模擬講義の概要 •講義のテーマ:ホームレスを救う「方法」と「意味」—法律家の使命を考える—

  • 講義の概要: 1.イントロ

2.事例:ホームレス小屋の強制撤去

3.行政側の論理と道路法のしくみ

4.法令の言葉を考える

5.民法における占有権

6.行政手続法による判断プロセスの統制

7.憲法に訴える

8.法律家の視点と使命

*大学1年生が受講して理解できるレベルの講義(50分)を行う。

2.論述形式試験の概要 •論述の設問内容:今日の講義では、弁護士のあり方についてのひとつの考え方が示されました。あなたの意見を述べなさい。

  • 解答の形式:A3レポート用紙形式・字数制限無し。
  • 試験時間:45分

 

【議論の整理】

「ホームレスの権利を保護する」という立場からの弁護士のあり方について述べたい。その前に路上に住まうホームレスというものは、法律上、どのような扱いになっているのか、どのように権利保護されうるのかを概観したい。まず、ホームレスが路上を不法に占有し、荷物を置くという光景が街中では散見される。この場合、道路交通法の規定では、道路の占用(32条)や、道路に関する禁止行為(43条)に明確に違反しているため、違法行為とみなされ、公共の道路を不法占拠することは法的に認められてない。しかし、それだけではホームレス小屋を強制撤去することができない。というのは、ホームレスの荷物については、各人の所有権が認められており、道路管理者が所有者本人の意志に反する形で、所有している荷物等を撤去することはできないためである。そのため、行政指導によって、ホームレス自身に自らの荷物を撤去させることが必要となると考えられる。ただ、荷物を撤去させる行政指導には、きわめて多大な労力がかかるのが実態であり、多大な行政コストがかかる。それでも、荷物等を撤去しない場合は、法律上の「代執行手続き」によって、強制撤去がなされることとなる。強制撤去までの道のりが長いため、一般市民からは、多数の苦情があるにもかかわらず、目に見える形での対応は実際にはとりづらく、「行政の努力不足である」という意見さえも頂戴しがちである。このような形で、ホームレスの対応を行っていると行政側は認識していることが多い。なお、平成14年に施行されていた「ホームレス自立支援法」によれば、道路管理者がホームレスに対して、道路法等の関連法令により、警告札の貼り付けなどを行い、口頭にて指導した後、不法占拠が法令違反であることを認識させるなどの措置をとることが必要とされている。その上で、自治体等と合同して福祉施設への誘導や、法令違反であることの指導、荷物撤去の指導を繰り返し行い、自立支援を行うことが国と地方公共団体の努力義務とされてきた。

【問題発見】

こういった国や地方公共団体の努力義務も、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とした日本国憲法第25条の生存権の規定を具体化したものだと考えられる。そのため、一般市民の視点では、相当見苦しい姿で都市の景観を損ねているホームレス問題も、当の本人にとっては死活問題であるため、国・地方公共団体としては、生存権の規定を基にして、どのようにホームレスの生活を保護すべきなのかということが問題とならざるを得ない。

【論証】

この点、法律家としての論点を考えるのであれば、「民法における占有権」によって、道路交通法上の法令違反に対抗できないかというホームレスの権利保護の視点もありうる。しかし、日本国憲法においては、生存権を含む基本的人権は「公共の福祉に反しない限り」で、最大の尊重が必要であることが明記されている。そのため、ホームレスが道路を無断で占有すること自体が「公共の福祉に反するかどうか」と言った点でも、考慮が必要にならざるをえない。結果として、近隣住民や一般市民からの多数の苦情によって、ホームレスの道路の占有は、認められなくならざるを得ないのが実態であると考えられる。

それでは、ホームレスが荷物を撤去しない場合の「代執行手続き」を不適切な行政行為として取り消しすることはできないのであろうか?結論から言えば、これもまた難しい。なぜなら、「行政代執行」の行為自体は、行政代執行法の規定に基づいて行われるものであって、行政行為に処分性が認められず、行政事件訴訟法に基づく「行政行為の取消訴訟」を起こすことができないためである。これにより、「代執行手続き」による強制退去を法律上止める方法もないというのが現状である。

こういった法的な事情があるため、「ホームレス自立支援法」では、ホームレスの保護と自力支援について、国と地方公共団体に努力する義務を課すに留まる規定を設けて、「極力ホームレス問題を解決するように」と国と地方公共団体に呼びかけをするにとどまっていると考えられる。

【結論】

以上、ホームレスという社会的な弱者であって、権利保護が必要となっている法主体について、現行の日本の法体系からどのように権利保護ができるのかを様々な視点から検討してみた。結論から言えば、道路を占有することもできず、行政権による強制退去も防ぐ方法がないため、ホームレスという社会的弱者を、法的論拠を基に救済することは極めて困難であると言わざるを得ない。

そのため、代案としては、ホームレスになってしまった人の人生のいきさつをきちんと振り返り、人生の立て直しを本人に決意させることによって、ホームレスの発生そのものを抑止するといった方法のほうが、法的にホームレスを保護することよりも、行政コストが安く、実行性の高い「ホームレス保護」になるのではないかと思われる。もしくは、NPO(非営利組織)などがホームレスの生活の保護に向けて自立支援の活動をすることによって、政府が管轄しなくても非営利組織によるボランティア活動を通して問題の解決を図ることのほうが望ましいのではないかと考えられる。

【結論の吟味】→不要

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