- 議論の整理
あらゆるアスリートにとって、肉体の酷使による障害のリスクは常につきものである。このような使い過ぎ症候群の大きな要因として現在注目されている疾患が、エンテソパチーである。腱・靭帯骨付着部に関する解剖学的な知見は深まっているものの、その治療法に関する臨床面での研究は少ない。エンテソパチーで最も多くみられる症候である疼痛の改善の為に、ストレッチや理学療法などが用いられ、重度の患者にはコルチコステロイド注射が行われるが、これらの治療法の有効性については臨床面でのエビデンス不足から議論が分かれるところであり、新しい治療法の開発が望まれている。
- 問題発見
このような現状を踏まえ、エンテソパチーの疼痛緩和の為の新しい治療法として提案されたのがヒアルロン酸局所注入である。これは変形性膝関節症や関節リウマチに伴うひざの痛みに用いられてきた治療法であるが、近年エンテソパチーの治療法として有効であることが報告されている。熊井教授らはヒアルロン酸投与による患者のVAS変化を測定し、単回のヒアルロン酸注入が疼痛の改善に有効であったことを報告している。それではこの治療法が以前の治療法と比較して優れている点を具体的に分析できないだろうか。
- 論証
具体的には、ヒアルロン酸注入前後の腱・靭帯骨付着部の動態変化について小動物を用いて解剖学的分析を行いたい。先行研究によれば、腱・靭帯骨付着部に隣接する滑膜性脂肪組織には多くの血管の存在が認められており、ヒアルロン酸が滑膜性脂肪組織での血管新生を抑制し、その結果何らかのメカニズムによって疼痛の改善が見られるという可能性が示唆されている。
- 結論
この研究はアスリートの障害予防に役立つのみならず、超高齢化社会を迎え問題化する高齢者のロコモティブシンドロームに対する治療法開発の一助となると考えられる。また、私自身スポーツを趣味にしていることから、スポーツ機能解剖学の知見を実生活に活用したいと考えている。
- 結論の吟味
上記研究に取り組むにあたって、貴学を代表するスポーツ科学研究者であり、整形外科医として臨床での経験も豊富である熊井教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
Kumai et al. (2014). The short-term effect after a single injection of high-molecular-weight hyaluronic acid in patients with enthesopathies (lateral epicondylitis, patellar tendinopathy, insertional Achilles tendinopathy, and plantar fasciitis): a preliminary study. Journal of Orthopaedic Science ,19(4), 603-611
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