- 議論の整理
認知症は患者本人のみならず、その周囲の人々にとっても辛い経験を強いる病である。認知症の症状は認知機能障害を主とする中核症状と、認知機能が著しく低下した結果として付随的に併発するBPSDに分けられる。BPSDは抑うつやせん妄などの精神症状と徘徊や暴言などの行動症状から成るが、認知症ケアの現場においては、中核症状よりもBPSDの方が介護上の心理的・肉体的負担の原因となっている場合が多いとされている。認知症患者とその周囲のQOLを向上させる為にも、BPSDへの効果的な対処法を検討することが急務である。
- 問題発見
近年の研究により、BPSDの症状の進行には脳の器質的変化といった生物学的要因のみならず、認知機能の低下を自覚したり、周囲の人間関係が悪化するなどといった心理社会学的要因が関与しているということが分かった。加瀬教授らはこの知見を踏まえ、高いレベルでの認知症ケアにおいてはこの2つの要因への対処が達成されていることを実証的に示し、BPSDの改善に有効なアプローチをモデル化している。このモデルにおいて重要とされているのが、患者が抱える心理社会的要因の背景への理解である。その理解はどのようにして達成されるのだろうか。
- 論証
先行研究によれば、認知症によって判断能力が低下した患者が社会的集団への適合に支障をきたし、自主的ないしは半強制的に集団から隔絶されてしまうという負のサイクルがBPSDの進行を加速させる可能性があることが指摘されている。患者を取り巻く環境に対するはたらきかけが認知症ケアにとって肝要であると考え、認知機能の低下した人々が支障なく過ごせるルールを具体的にどう設ければよいのかを実証的に検討したい。
- 結論
わが国では超高齢化社会を迎え、認知症を発症する人の割合は今後も増加していくと考えられる。認知症ケアの在り方は一人一人が当事者意識をもって考えるべき問題であり、本研究が議論の契機になることを期待している。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、日本における認知症ケア研究者の一人であり、社会福祉学分野において多くの業績を残している加瀬教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
加瀬裕子、多賀努、久松信夫、横山順一 (2012)「認知症ケアにおける効果的アプローチの構造−認知症の行動・心理症状(BPSD)への介入・対応モデルの分析から−」『社会福祉学』 53(1), 3-14
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