- 議論の整理
近年の神経科学研究により、中枢神経系の発生について様々なことがわかってきた。脳を構成するニューロンは神経幹細胞から生じるが、これは発生の初期段階に主に見られる現象であり、これまでは成体において新たなニューロンの産生は起こらないと考えられてきた。しかし、成人の脳でも脳室下帯(SVZ)という部位においてニューロン産生が起こるということが近年報告されており、再生医療への応用面から注目を集めている。このニューロン産生能を持つ神経系前駆細胞を制御する遺伝子発現機構についてはわかっていないことが多い。
- 問題発見
当該分野において、榊原教授らは神経系前駆細胞内で強く発現する遺伝子を同定する為に、マウス胎児および成体脳のSVZを用いた遺伝子カタログの作成を行っている。そこで同定された遺伝子のうち、MG46と呼ばれるものは神経幹細胞のもつ多分化能において重要な役割を果たすことが実験から示唆されている。それでは、MG46の遺伝子産物はどのようなメカニズムで神経系前駆細胞の制御を行っているのだろうか。
- 論証
MG46遺伝子は神経堤細胞の移動などに機能するAP-2タンパク質と低い相同性をもつことがわかっており、進化的に類似の機能をもつと考えられる。クラスリン依存性エンドサイトーシスを司るAP-2は、アダプタータンパク質として特定のタンパク質の輸送を行う。従って、立体構造的にクラスリン結合部位を有しており、これによって膜輸送を可能にしている。本研究ではMG46遺伝子産物がアダプタータンパク質の一種であると仮定し、クラスリンとの結合親和性を調べたい。
- 結論
この研究は、ニューロン産生のメカニズムについての新たな知見を提供し、脳疾患により中枢神経系に損傷を負った患者の治療法を考案する際の一助となることが期待できる。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、日本の神経科学分野を代表する研究者の一人であり、今も第一線で研究されている榊原教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
Iwasaki, T. Yumoto, S. Sakakibara (2015). Expression profiles of inka2 in the murine nervous system. GENE EXPRESSION PATTERNS. 19(1-2), 83-97
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