- 議論の整理
マラリアは低緯度地域を中心に世界中で2億人以上が罹患している感染症である。媒介生物はハマダラカという単一の昆虫種である為、その発生パターンとマラリアの感染リスクには相関関係がある。従って、ハマダラカの発生パターンを精度良く予測するモデルを構築することはマラリア対策にとって重要である。生物圏生態学領域において、太田教授らは蚊の発生速度は十分な水のある条件下での生息地の温度によって決まるという仮定に基づき、単純な気候因子や土壌を変数とするECD-mgモデルの構築を行い、十分な精度で蚊の個体数を予測することを可能にした。
- 問題発見
しかしながら、既存のECD-mgモデルでは考慮に入れられていない環境因子の存在により特定の条件下での蚊の個体数推定が困難になることがある。灌漑などのように人為的な活動によって自然の物質循環に影響が生じる場合である。このような環境因子を特定し、ECD-mgモデルをより改良できないだろうか。
- 論証
先行研究においては、半乾燥農業地域における灌漑システムの存在がハマダラカの年間生育期間を延ばし、最大発生数を増加させていることを踏まえ、灌漑による水量の変化をも考慮に入れたモデル構築を行っている。その結果、当該地域における蚊の発生数の予測精度を向上させることに成功しているが、本研究もそれに倣って行いたいを考えている。具体的には、農業が環境に与える影響に焦点を当てて蚊の発生に寄与するパラメータを抽出したい。
- 結論
精度の良いECD-mgモデルにより蚊の発生数が正確に予測できれば、発生数に応じた対策が立てやすくなる。これによりマラリアの感染者数の減少に貢献できる為、その点においてこの研究に大きなやりがいを感じている。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、気象学と生態学の複合領域であり、広範な知識と高度な解析能力を要する生物圏生態学研究において多くの業績をあげている太田教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
Ohta S, Kaga T (2013). Effect of irrigation systems on temporal distribution of malaria vectors in semi-arid regions. International Journal of Biometeorology.
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