■議論の整理
ニューデリー国立博物館には、スタインが収集した仏菩薩の図像集が存在する。イギリスとインドにおいて収集された仏菩薩の図像集には、様々な点で従来の菩薩像とは異なる要素が見て取られるという研究が報告されている※1。
■問題発見
民間信仰と密接な関係がある菩薩像のデザインは、その場所の思想や特徴を取り入れて、民衆によって作成され親しまれてきたものだといえる。必ずしも経典通りの姿をしているとはいえず、そこにはその場所に根付いた土着的な進行とともに存在する。しかし、そもそも経典の原著は失われている。イスラム教徒による廃仏毀釈によってその原点は失われているのだから。ではどうやって私たちは本文研究の道を広げられるだろうか。
■論証
たとえばインド仏教から派生した中央アジアの仏教は、民間信仰と結びつき、変形しながらも廃仏毀釈を免れた興味深い信仰を生み出した。アジアは広大だ。シルクロードをたどり、廃仏毀釈を免れながらも生き延びた、いわゆる密教化を遂げたその聖典には、なにか廃仏毀釈されてしまった原典の痕跡が残っているかもしれない。
■結論
図像学がある。図像には、文章にはないイメージがあふれている。火で焼かれるイメージやコスミックツリーのイメージなど、様々なイコンをどのように変形し、自分たちの信仰に近づけて残していくかという痕跡が刻まれている。そしてそのイコノグラフィーを分析することが、過去へ遡行するきっかけを示しているかもしれない。
■結論の吟味
インド仏教の原典を、多くの収集された不可解な図像を解読して糸口を見つけること。これらの作業は、有意義なヒントを与えてくれるだろう。宗教が悪い意味で注目されて久しいが、人間の営為の中に重要な位置を占める宗教をもう一度考え直すためにも、多くの図像学的な仏教研究究に人生をささげてみたい。このような学問を勉強すべく、貴学の入学を強く希望する。
※1肥田路美「敦煌蔵経洞将来「絹本西域仏菩薩図像集」の初歩的考察――ニューデリー国立博物館所蔵断片のいくつかの図像を中心に」『早稲田大学大学院文学研究科紀要 第三分冊 日本語日本文学 演劇映像学 美術史学 表象・メディア論 現代文芸』60 2015
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