■議論の整理
狩猟民族から農耕民族に移行したことは、文明市場において大きい意味を持つ。定住革命が起きれば、そこで富が再分配されづらくなり、貧富の格差が広がると、階層化が生じる。一般的には、定住革命が階層化を促したと考えられているが、他地域との比較によってより正確な説明ができる。
■問題発見
北米北西海岸沿いの部族たちは、海外沿いの魚類や哺乳類を主食とする狩猟民族である。彼らは、厳格な階層を持ち、アシカやオットセイ、クジラを狩猟できるのは階層が高い人物だけである。彼らは奴隷を持ち、多くの自己顕示のために人身御供やポトラッチとしてささげられた。彼らはなぜ狩猟民族なのに、身分階層をもっているのか。
■論証
豊かな物質がある場合、狩猟民族であろうと、階層社会や身分性が起きやすいということが言える。一方で同じ狩猟民族でも、縄文時代の日本は階層社会がなかったといわれるのは、そのような理由によるのかもしれない。人類学においても、他地域との比較によって、人間社会の複雑化の過程を巨視的な視点で研究する余地はいまだに残っていると言えるだろう。
■結論
文明は、定住してからかわったと考えるだけでは十分ではない。その地理的な条件のもとで社会を構成する物質が豊かかどうかが、階層性を発生させ、上下関係に基づく、共同体の論理が働き始める。家族の構成集団や、様々な儀礼の複雑化、これらの現代にも通じる社会の複雑化は、富を蓄えることができたかどうかにおいて発生源を認めることができるだろう。貧しい時ほど、相互扶助が働いて共同体は飢えをしのいでいたといえるかもしれない。
■結論の吟味
人類学的な観点から、文明を見てみることは、今私たちが直面する差別意識や構造上の問題を新たな視点を提供してくれる可能性がある。わたしたちはあまり進化していないと感じることもあるし、自分たちが自明と思っていたことを疑い始めるきっかけを与えてくれる。人類学的な視点を用いて、日本の部族と、世界の部族を比較検討することによって、日本の特殊性・共通性、私たちが抱える問題をより深く考察してみたいと考え、貴学への入学を希望する。
※1菊池徹夫・髙橋龍三郎・熊林佑允「北米北西海岸部の比較考古・民俗学的研究――縄文文化社会の複雑化過程解明のために――」『史観』150 早稲田大学史学会 2004
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