早稲田大学 文学部 AO入試 志望理由書 提出例(鶴見太郎ゼミ向け)

■議論の整理

他民族が一つのネーションの中に存在する国は多数ある。日本は長らく、単一民族神話が根付いていたが、琉球王国やアイヌ民族など、多民族が抑圧・吸収される形で国家が作られていった多民族国家であった※1。世界中にディアスポラとして離散する民族に、ユダヤ民族と呼ばれる人々がいる。

 

■問題の発見

ユダヤ民族は、アジア大陸をまたがる多くの場所に離散した特異な民族である。一方でユダヤ教やパレスチナ回帰運動(シオニズム)などによる集団意識の強い民族としても知られる。彼らは自分たちの故郷であるパレスチナを奪還しようとする運動において、一つの大きな組織的な意識を持っている。このような連帯はいかにして可能になっているのだろうか。

 

■論証

なぜパレスチナかという議論に焦点をしぼった研究※2では、一種の復古運動としての側面が強いということが挙げられている。西洋の芸術運動に「ルネサンス」があるが、このルネサンスは古き良き時代の創造的な文化芸術行為を模倣することで、もう一度芸術に活力を取り戻そうとする。しかしその反面、古きよきものにすがるだけではなく、私たちがさらなる進化を行うために古いものをもう一度取り入れようとする、進化論主義的な思想も見て取れる。

 

■結論

パレスチナ奪還運動も同様だ。パレスチナにいたころのユダヤ民族は真に創造的な行為を行っていた。今は堕落してしまった民族の進化をもう一度成し遂げるには、パレスチナに戻り、もう一度創造的な活力を取り戻す必要がある。このような論理が、パレスチナ運動には隠れている。復古運動と進化論の流行は表裏一体であり、その理屈に潜んでいるのは、自分たちは環境さえ変えればもう一度進化できるはずだと考える環境説=進化論であり、その思想のナショナリズムへの流用である。

 

■結論の吟味

二つの世界大戦を経て、ナショナリズムが批判されて久しいが、現在ではグローバリズムに伴う、反動的なナショナリズムが復帰しつつあるだろう。ユダヤ人は、現在のグローバリズム環境下になる以前から、散り散りになった同胞たちと連帯意識を強く持ち、組織的な運動を起こして来た稀有な存在だ。その連帯のありようを理解することで、現在の状況を打破する新たな連帯意識の可能性・不可能性を浮き彫りにすることができるかもしれない。そのようなことを研究したいと考え、貴学への入学を強く希望する。

 

※1小熊英二『単一民族国家神話の起源 <日本人>の自画像の系譜』新曜社 1995

※2鶴見太郎「ロシア・シオニズムにおける進化論的思考――帝政末期のユダヤ・ナショナリストがパレスチナを志向した一契機」『ロシア史研究』88(0) ロシア史研究会 2011

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