早稲田大学 文学部 AO入試 志望理由書 提出例(藤井明彦ゼミ向け)

■議論の整理

国民国家にとって欠かせないものは何か。それはいわゆる標準語と呼ばれる言語だ。国民国家は、人々の主体的な紐帯に基づいて、封建的な抑圧ではない形で、ナショナルな境界を形作ることで成立する。その時に、国民国家形成の境界線の重要な要素となるのが、同じ言葉を話すことだと述べたのは、ベネディクト・アンダーソン※1だった。

 

■問題発見

日本で言えば、明治時代に言文一致体が創設され、時枝誠記らの国文学者にとって成立した文体が広く流通し、小説界にも内面を描くことが可能になるような私小説が誕生したとする見方が一般的だ。つまり、言語によって内面が発見され、語るべき主体が表れたことになる。そのときに重要な役割を果たしたものが印刷術である。

 

■論証

言語が広く流通するには、活版印刷の登場が必須であり、メディアの流通に載って人々に標準語が届けられなければならない。人々は、教育によって上昇した識字率によって、その言語を読み、内面化し、国民国家が誕生する。標準語が誕生し、印刷術によって流布され、教育される。この三すくみは国家的なプログラムとして作動している。

 

■結論

海外の場合は、どうか。15世紀ドイツにおいて標準的なドイツ語を流通させる際に同時代の人々から称賛され、その研究の重要性が解かれている印刷工房にギュンター・ツァイナーの印刷工房がある。研究によれば、初期ドイツ語文法の発達段階と並行して、8年間という比較的短い活動期間のうちにツァイナーがほとんどすべての言語現象においてその実現法に改変を加えていった様子が明らかになった※2。

 

■結論の吟味

つまり、標準語のモデルが作りあげられていく過程と、印刷工房が独自に標準語文法を獲得していく過程はきれいにリンクしているということだ。このことから、印刷術の発展と、標準語の発展、ひいては国民国家への形成への過程をたどりなおしてみることは、言語とメディアと国家の関係を考察するうえで重要な契機を提案すると考える。上記のようなことを私も海外の言語研究の成果を使いながら、研究してみたいと考え、貴学への入学を希望する。

 

※1ベネディクト・アンダーソン『定本想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』書籍工房早山 2007

※2藤井明彦「ギュンター・ツァイナーの印刷後の成果――15世紀のアウクスブルクの印刷後の研究――」Waseda Blätter(14)早稲田ドイツ語学・文学会編集委員会 2007

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