■議論の整理
ロシアは世界大戦で敗北した点で日本と似た歴史を歩んでいる。しかし大戦後、日本は資本主義国化し、アメリカの傘下に入った。一方ロシアは、共産主義の金字塔として常に最前線を走り、資本主義と戦い、コミュニズムの砦として君臨してきた。しかし冷戦後、ロシアはまたも経済的な敗北の道をたどることになる。
■問題の発見
敗戦は、日本とロシアでは似たような「帝国の敗北」という経験ではあるものの、日本は核の投下による被害者意識が混在する中、アメリカの庇護のもとで自己形成を再度行う方法を取った。しかしロシアは、敗戦の感覚を忘れることができず。主体性だけを保持し、再形成しなければいけない苦難の道をたどっている。そこで培われたロシアの精神とはどのようなものか。そもそもロシアは歴史的にどんな場所であり、どのような思想の新味があるだろうか。
■論証
西洋が時代の最先端を行くという「時間的な歴史」をもつとすれば、ユーラシア大陸に大きくまたがるロシアは「地理的な歴史」※1とでも呼ぶ不思議な空間を持っている。だから、競争による最先端を目指すのではなく、差異を消し、雄大な世界の中で平等に生きようとする社会主義・共産主義が根付いたということは可能だろう。共産主義を理論的に引っ張ってきたマルクスの考えは、資本主義が労働者に「命がけの飛躍」を強いるさまを暴き立てたが※2、その思想が開花したのも、この雄大なロシアという場所だった。
■結論
ロシアは左翼の理論的支柱でありながら、著名な芸術家を多く輩出してきた国でもある。SF作家のタルコフスキーや、映画界の巨匠エイゼンシュテインなど前衛的な作家も散見される。左翼芸術の逃走の歴史を、ロシアという場所をきっかけにして研究してみるのはとても有意義なことだろう。
■結論の吟味
左翼の思想として、ロシアや中国が注目されなくなって久しいが、ロシア革命100年を記念して2017にはロシア現代思想の特集も多く組まれている。グローバリゼーションが行き詰まりを見せる中、もう一度、広大なユーラシアに横たわるロシアの思想や文化を研究し、今後の世界表象の基礎研究を行ってみたいと考え、貴学への入学を希望する。
※1坂庭淳史「書評 『ゲンロン6―特集ロシア現代思想Ⅰ』『ゲンロン7-特集ロシア現代思想Ⅱ』」『Slavistika 東京大学大学院人文社会系研究科スラヴ語スラヴ文学研究室年報』(33/3) 2018
※2カール・マルクス『資本論』第一巻第一分冊 新日本出版社 2019
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