上智大学 外国語学部 ポルトガル語学科 レポート等特定課題 2019年 小論文 解答例

■設問

課題図書を読み、その中から最も関心を持ったテーマについて、さらに別の資料を読んだうえで、自分の意見をレポートにまとめなさい。
<課題図書>
上智大学外国語学部ポルトガル語学科編『ポルトガル語圏世界への50のとびら』(上智大学出版、2015年)

 

■答案

議論の整理

ブラジルは多人種社会である。南アメリカ大陸最大かつ世界で第五位の面積を誇りラテンアメリカ最大の人口を擁するブラジルは、その波乱万丈な歴史的背景のために白人も黒人もアジア人も共存する極めて多様な民族と人種を特徴とする国家となった。多民族国家としてのブラジル人の起源は16世紀の植民地時代にさかのぼる。その時代ブラジルには先住民と入植者、そしてアフリカからの労働者である黒人奴隷を含めた三つの系統が存在していた。1500年ポルトガルによるブラジルの発見を契機にブラジルには、第一発見者であるポルトガルをはじめオランダや他のヨーロッパ諸国から多くの入植者が流入するようになる。先住民は入植者の持ち込んだ病原菌や戦争に巻き込まれ瞬く間にその数を減らしていったが、一方で入植者や黒人奴隷との雑婚も頻繁に発生するようになった。さらに16世紀半ばから19世紀半ばにかけての約3世紀にわたり奴隷貿易によって多種多様な民族と国家からなる大量のアフリカ人がブラジルへ新たに流入し続け、今日における多民族国家としてのブラジルを形成する大きな要因となる。続く19世紀から20世紀にかけてはヨーロッパ人のみならずアジア人などもブラジル移民に加わったことで、現在のブラジルの多人種社会を完成させた。

このようにして植民地や移住先として歴史的背景から多様な民族を受け入れ人種の混在を果たしたブラジルであるが、その特異性は世界的に見ても目を見張るものがある。ここでブラジルの多人種社会を代表するグループを5つに分けてその特徴を確認していきたい。まずは人口の約半分を占める多数派の人種グループ、白人系ブラジル人である。その多くは植民地時代に上陸した入植者や、ブラジル移民が増加した際ヨーロッパの各地から移住してきたヨーロッパ人を起源としている。続いて2番目に多いがパルドと称される混血民族だ。彼らは前述した雑婚によってアフリカ奴隷や先住民と移民したヨーロッパ人男性の間に生まれたことで白人とも黒人ともとれない褐色の肌を特徴とする。そして続く3番目が黒人系ブラジル人で4番目がアジア系ブラジル人だ。前者は植民地時代大規模な流入を何度も重ねたアフリカ系の黒人奴隷を起源としており、後者はその後世界的に喚起された奴隷廃止運動に応じて移住が広がったアジア人の移民を起源とする。特にその最大の民族は日本人であるのだが、これは奴隷廃止において急速に不足していった農業労働者の獲得のためにブラジル政府が1892年表明した日本人移民の受け入れによるものが大きい。そして最後の人種が先住民系ブラジル人にあたる原住民だ。植民地時代に迫害を受け各地に追いやられた彼らの総人口は現在微々たるものであるが、ブラジル人の多くに受け継がれている遺伝子を有する代表的な人種といえる。このように様々な人種と民族が混在するブラジルは人種の壁を超えた国家の成功例として取り上げられることが多い。

問題発見

確かに16世紀にはじまる人種の交わりは長い時間を経て現在の多文化共生へ大きく貢献したように思われる。

論証

しかしブラジルでも依然として人種差別の現状は存在している。たとえば2010年の国勢調査ではブラジルにおける黒人や混血人種の平均所得が白人や東洋人に比べて2.4倍も低いことが明らかになった。また合わせて彼らの15歳以上の識字率が非常に低いことや生活水準の格差、医療サービスの恩恵の少なさなど様々な問題が表面化する結果となった。これは紛れもなくブラジルにおける隠れた人種差別意識の表出であり、常態化しつつある人種差別の現実が明白となった。しかしもちろん他国に比べてブラジルにおける多文化社会の実現度は高い水準にある。

結果

今後の課題はその歴史的背景で獲得した多文化共生の可能性を持続させ、潜在化する人種差別や民族主義の現実を明らかにし具体的な対策を国家をあげて取り組んでいくことといえよう。

吟味

長く世界的規模で社会問題としてあり続ける人種差別への解決の糸口をブラジルは既に握っていると私は考える。

 

(計1633字)

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