■設問
日本社会における多文化共生について、欧米社会における移民に対する昨今の議論を踏まえつつ、あなたの考えを1400~1600 字の日本語で述べなさい。ただし、
・現状認識を踏まえたものにすること
・論述に際しては、関連文献を 3 点以上参照し、そのリストを添付すること(上記字数には含まない)
・論旨に即した適切な表題をつけること
■答案構成
議論の整理→多文化共生と移民問題
問題発見→移民により引き起こされる問題とは何か
論証→欧米社会における移民問題
解決策or結論→多文化共生による日本の社会問題解決への糸口
解決策or結論の吟味→不要
■答案
表題「多文化共生が有する課題と可能性」
議論の整理→多文化共生と移民問題
多文化共生とはその名の通り国籍や民族などの異なる人々が、そこに根差す文化や宗教などにより発生する文化的差異を互いに認め合い、対等な立場と関係を確保しながら同じ地域社会の構成員となって共に生きていくことを指す。これはすなわち昨今において世界的規模で問題視されている移民問題に対して提起される重要な課題といえる。
問題発見→移民により引き起こされる問題とは何か
国家同士が地続きに存在する欧米諸国では、貧困や母国の国際情勢の問題から仕事の獲得や身の安全を求めて隣接する国家に流入していく移民が増加傾向にある。そして異文化が衝突することにより起こる人道的問題や人口の過度な増加による財政的問題などが現在移民問題としてしばしば取り上げられる。
論証→欧米社会における移民問題
イギリスのシンクタンクである王立国際問題研究所は2017年に欧州10カ国の国民1万人に対し移民問題に対する直接的な調査を行った。それはイスラム圏からの移民の流入を停止すべきかというやや偏りのある調査ではあったが、10カ国の平均で55%が停止すべきとの答えが見られた。これは移民流入に対する自国民の強い反発を示しているといえ移民問題が各国において対処すべき問題として浸透しつつあることを表している。さらに興味深いのは移民流入へ反発する意見が高齢者、低学歴者、地方在住者に多いことだ。これは賃金の低下や職や雇用機会の減少を懸念した回答と考えられ移民問題の圧力が主に前述した層にかかっていくことを表した回答といえる。また移民問題で合わせて発生する大きな問題の一つに財政負担の悪化が挙げられる。不法入国者などを対象とした国外追放に向けての収容負担や検査のための負担などは移民数の増加に比例して財政を圧迫していく傾向にあり、そもそも移民が自由に流入できてしまう環境自体の見直しを検討している国も存在する。アメリカには密輸や密入国の阻止を目的とした「メキシコとアメリカの壁」と呼ばれる2国の国境に沿った壁とフェンスが存在し、アメリカ国境警備隊によりセンサーと監視システムを使用した厳重な対策が為されている。2018年には数千人規模の移民が中米諸国からアメリカを目指していることが伝えられ、現大統領であるドナルド・トランプ氏が対抗手段として同規模の米軍の派遣を発表し国際的な緊張を生んだ。
解決策or結論→多文化共生による日本の社会問題解決への糸口
では日本における移民対策はどうであろうか。少子高齢化が著しく各業界において人員不足の悪化が叫ばれる日本では財界と政界の双方から移民の可能性を主張し受け入れを求める声が上がっている。たしかに一時的な視点でみれば移民の受け入れは単純な人口の増加として少子高齢化の食い止めや人員不足の解消が可能であろう。しかし昨今における欧米社会での移民問題を鑑みると、一時的な判断による移民の受け入れは長期的な問題を度外視しており結果として欧米社会で現出している問題を再度日本においても引き起こしかねない。たとえば2016年度日本では生活保護を受ける外国人が月に4万世帯を超え過去最高となった。この背景には無年金や語学力不足が挙げられ、移民が労働力として直結しない現実が伺える。多文化共生の観点でいえば移民との共生は多文化の相互理解によって初めて成立するものである。ゆえに日本で前述した効果を移民に期待し受け入れを実施するならば、その前段階として国民の多文化への理解が必須となり、移民に対しても明確な基準が必要となる。移民は現代日本の社会問題を救う手立てに十分成り得る。その実現のためにまずは国家全体を上げての多文化共生を促進する土壌作りが先決であると私は考える。
(計1439字)
《参考文献》
川村千鶴子(2009)『移民政策へのアプローチ』明石書店.
松尾慎ほか(2018)『多文化共生 人が変わる、社会を変える』凡人社.
大竹文雄(2010)『競争と公平感ー市場経済の本当のメリット』中央公論新社.
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