■ 議論の整理・・・
介護における「観察」とは,利用者の状態や変化を客観的に注意深く見ることである。この「客観的に」というのが大きなポイントで,自分ではきちんと観察しているつもりでも,そこに自分の考え「主観」が入り込んでしまうと,観察ではなくなってしまう。例えば,機嫌が悪くてオムツ交換を嫌がった場合,「オムツ交換を嫌がった」というのは客観的な事実だが,「機嫌が悪く」というのは見た人の主観である。ここで目線やしぐさ,利用者の言動などをしっかり観察する力があれば,「もしかしてこれが気になるのか?」「喉が乾いているのか?」「この言い方が嫌だったのか?」と推察することができる。ひとつ言えることは,決め付けは観察力を下げてしまうということである。観察は,「相手を知ろうとする感性」といえる。つまり感性を磨いて,相手の心が訴えていることを推し量ることができれば,介護職のすべてのスキルを格段に押し上げていく底力となると考える。
■ 問題発見・・・
では,介護においての「観察」の情報は,どう使われることが望ましいか。
■ 論証・・・
介護の現場では,被介護者1人に対して2人以上の人間が2箇所以上のコミュニティにおいて介護する機会があることが多く,情報の共有が大切になる。情報を共有することで,利用者の生活パターンがわかり,他のスタッフのケアを意識し,しっかり「観察」しようとする意思が生まれる(*1)。また,システムに入力し共有することで,関わりの少ない利用者の様子も良くわかり,正しい声かけやケアが行われることで,被介護者の精神も落ちつき,介護者たちの負担減に繋がるという好循環が生まれると考える。しかし,「観察」は,ケアスタッフの経験や能力に拠るところが多く,そのノウハウはあまり伝授されないのが実情である(*1)。そのため,このシステムによる共有は,非常に有効であると考える。
■ 結論・・・
そこで,家庭やコミュニティの枠を越えた「観察力を強化する」プログラムを作成し,広く社会に普及させたいと考えている。
■ 結論の吟味・・・
貴学SFCでは,実践的で能動的なプロジェクトへの参加を主体としたカリキュラムを実践しており,私の研究に最適な環境が整っている。また,貴学の古谷知之教授は,医療・健康分野のデータサイエンスやベイズ統計による満足度評価などの研究実績も多く,上述の研究をより充実したものにできると考える。したがって,貴学SFCに入学し,古谷知之研究会に入会することを強く希望する。
(*1) 今村晴彦,長澤秀紀,神成淳司,福田亮子,玉村雅敏,古谷知之.“介護現場における「気づき」の誘発と共有を目的したシステムの構築と検証”,日本人間工学会大会講演集,Vol.45, No.0, pp.208-209, 2009
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