慶應義塾大学 FIT入試第2次選考 法学部政治学科 2009年論述問題 解答例

2009年度FIT入試第2次選考概要(政治学科)

1.模擬講義の概要 •講義のテーマ:「内戦」と人道的介入

  • 講義の概要: 1.平和と戦争に関するふたつの見方

2.コソヴォ問題にみる人道的介入

3.人道的介入のジレンマをめぐる3つの視点

4.日本はどう対応すべきか

*大学1年生が受講して理解できるレベルの講義(50分)を行う。

2.論述形式試験の概要 •論述の設問内容:国際社会が人道的理由によって「内戦」に介入することの是非について、模擬講義の要約および自身の考えを論述

  • 解答の形式:A3レポート用紙形式・字数制限なし。
  • 試験時間:45分

 

【議論の整理】

「内戦」と人道的介入についての議論を整理する。戦争と平和という考え方には2つの視点がある。一つ目は、戦争と戦争が起きる間の期間が平和に過ぎないとする考え方だ。この考え方は戦争が常に置き続けるもので、常に備えとしての軍備が必要だという考え方に基づいている。もう一つは、平和とはそもそも戦争を起こさないこと、戦争がなくなることが平和だという考え方だ。この考え方は、戦争が世の中からなくならない限り、平和は訪れず、自らの手で戦争を起こしては絶対にいけないと考える。

しかし、現実には、国際社会においては、何度も戦争が起きてきた。そして、戦争の原因となるものが緊急性の高い人権侵害であって、その見逃しがたい行為が他国で行われてきたとき、「人道的介入」という手段がとられてきた。人道的介入とは、「他国で侵害されている人権擁護を目的として、外交的圧力や経済制裁、停戦・警察等の要員派遣、軍事力の行使などを行って、他国の内政の介入すること」を指す。セルビアによるコソボのアルバニア系住民への大量虐殺といった悲惨な人権侵害に対して、国際世論の合意を得て、軍事力の行使によって人権侵害を止めるために人道的介入が、過去、NATOの手で行われたことがある。人道的介入に際しては、国際的な人権尊重の意識の高まりによって、他国の人権侵害への国際的な関心が高まっているという背景があるものの、緊急性の高い人権擁護のための軍事力行使によって、他国の破壊と人権侵害をもたらすという点で、道義的なジレンマが存在すると言われる。

この点、日本国憲法にて平和主義を標榜している日本は人道的介入にいかにして対応すべきだろうか。現在の政府見解では、どのような地域で発生した事態であっても、日本が直接武力攻撃をされた場合、他国への攻撃によって日本の存立が危ぶまれる事態、放っておくことで日本の安全が脅かされる事態、そして、国際社会の平和と安全を脅かす事態の4つの事態において、他国軍の支援をすることは可能であるとする見解を提示している。こういった点を考慮すると、日本は他国の緊急性の高い人権侵害が発生した場合、自衛権を発動することはできないが、上記の条件に当てはまれば、地球上のどこに行っても、平和維持(PKO)活動ができるものとされた。以上のことを前提にして、国際社会が人道的理由によって「内戦」に介入することの是非について、考えていきたい。

【問題発見】

国際社会が人道的理由によって「内戦」に介入する理由の根本には、「努力すれば防止できるはずの悲惨な人権侵害を放置して見過ごしてよいものかどうか」という視点があるものと考えられる。確かに、ドイツにおける強制収容所とユダヤ人の大量虐殺といった、誰が見ても人間としておかしい行動を国家が実施することになっている場合は、国際社会が一致団結して人権侵害を食い止めるという枠組みが存在してもよいという考え方もある。しかしその一方では、各国の内政に関しては、国家の主権が独立しているのだから「内政不干渉」の原則が貫かれるべきであるとする考え方もありえる。どちらがより妥当な考え方であろうか。

【論証】

結論から言えば、人道的理由による「内戦」への介入そのものは、容認されてよいものと考える。というのは、人道的介入が問題視される理由は、「内戦」に介入することにより、さらに大きな戦争に発展するケースや、軍事力の行使により、別の人権侵害を伴わざるを得ないケースが存在するためである。これらのケースは、人道的介入の目的ではなく、手段に問題があったと考えることも可能だ。

人道的介入の目的ではなく、手段に問題があった場合はどのような点に留意すればよかったのであろうか。まず、国際的な合意を得たうえでの実力行使であるのか、国際的な合意をどの枠組みで行うのかという点が重要である。さらには、内戦状態によって数多くの人権侵害が現実には起きているが、どの人権侵害に介入するのかという判断も必要となる。そして、その上で、介入手段をどのように設定すべきか、成功の見通しはどの程度か、撤退はいつ頃に行うべきか、といった判断が必要となる。

そして、これらの判断は、「人権侵害の元となっている紛争」をいかにして停止させるかという戦争を収束させる方法を見極めることと等しい。紛争を終結させる方法を予め見極めることは、当たり前のことであるが、容易ではないのが普通である。そのため、ベトナム戦争などの戦争の泥沼化を予防するためにも、人道的介入を行うに際し、紛争を停止できることが容易に想定されるということが必要な条件となる。

ただし、一般的に言って、人道的介入を行おうとする国家は、介入される国家よりも軍事力において優位に立つことが多い。そのため、行使される軍事的攻撃力を高めることによって、紛争それ自体を止めることは、軍事力が拮抗している国家同士よりもはるかにたやすいということは言えるはずである。

【結論】

以上の検討より、人道的理由による「内戦」への介入は、国際的な合意を得るなどの必要な手続きを経たうえで、軍事的アドバンテージを背景にして、紛争を止めることが容易にできることが想定される場合に限り、容認されてよいものと考える。

【結論の吟味】→不要

 

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