慶應義塾大学 経済学部 入学試験 2005年 小論文 解答例

■ 問題

次の[課題文]を読んで,以下の問1~問3に答えなさい。

[設問]

問1.
課題文は,インターネットが公共的な議論の場の形成に寄与するであろうとしているが,どのような理由からそう主張しているか,課題文全体に注意を払いながら,320字以内で説明しなさい。

問2.
課題文は,インターネットの高い普及率にふれているが,それにもかかわらず,デジタル・デバイド(異なった集団の間に存在する情報アクセス能力の格差)の存在がしばしば指摘されることがある。社会が,課題文において示唆されているような望ましい方向に進むには,デジタル・デバイドが大きな障害となりうることを,インターネットの特性に注目して320字以内で説明しなさい。

問3.
インターネットを介した交流の特色の1つに匿名性がある。これは,既存の人間関係を超えて自由な意見交換を促す役割を持っている。その反面,匿名性によって問題が引き起こされていることも事実である。どのような問題が存在するか,インターネットがもつ匿名性の長所に言及しながら,具体的な例を用いて320字以内で述べなさい。

 

問1.

インターネット利用者が急増し人口普及率が高まったため,議論に参加できる母集団が拡大した。さらにインターネットの特性上,情報の交換や収集が低コストで迅速かつ容易にできるため,個人が情報発信する機会が増えるとともに,制限なく情報を収集することもまた可能となった。インターネットには,しがらみや人間関係の縛りを受けずに自由に意見交換することを可能とする優れた特性(すなわち匿名性)もある。ネットワーク上の情報は国境や文化的・民族的制約を易々と乗り越えることから,グローバルな議論も可能となる。すなわちインターネットは,人々が共有する問題やそれに対する見解について率直な議論を交わすことができる社会インフラとなった。これがその理由である。(原稿用紙で315字相当)

 

問2.

■ 答案構成

この設問に対しては,< 5-STEP >を論点の軸を練るフレームワークとして利用する。
議論の整理→ デジタル・デバイドにより“蚊帳の外”に追いやられる層として,高齢者層(端末の操作に不慣れ)と低所得者層(端末購入が過負担)に絞る
問題発見→ ネットにアクセスし得ない層は,ネット社会では「存在していない」ものとみなされる
論証→ ネットにアクセスし得ない層はネットを通じて声を上げることができないため,議論から取り残される
解決策or結論→ デジタル・デバイドは「社会が望ましい方向に進む」ための障害となっている
解決策or結論の吟味→ ×

■ 答案

インターネットの特性上,ネットワーク上の情報にアクセスするためにはスマートフォン,タブレット端末,パーソナルコンピュータなどのデジタル端末を必要とするため,利用者はその入手コストや通信コストなどを負担する必要がある。また,情報の受発信をするには自らデジタル端末を操作しなければならないが,デジタル端末の操作に対する抵抗感は年齢とともに増す。これは,所得や年齢によって,ネットワーク上での情報交換や情報収集が不可能な層が存在し,ネットーワーク上で交わされる議論には彼らの意見が反映されないこと,さらには彼らはネットワーク上で交換される情報にアクセスできないことを意味する。これは「社会が望ましい方向に進む」ためには大きな障害となりうる。(原稿用紙で317字相当)

 

問3.

■ 答案構成

この設問に対しては,< 5-STEP >を論点の軸を練るフレームワークとして利用する。
議論の整理→ インターネットの匿名性には「功」と「罪」があることに言及する
問題発見→ (匿名=言動責任免責)という誤解から発言が尖る傾向あり
論証→ 具体例として,SNSを介した誹謗中傷,デマ,迷惑行為を挙げる
解決策or結論→ 一旦ネットに載った情報は増殖を繰り返すため完全には削除できない
解決策or結論の吟味→ ×

■ 答案

インターネットの匿名性に関する功罪を考える。人間関係,しがらみ,社会的立場などの諸々の制約から解放された忌憚のない自由な意見交換や,専門性や機密性の高い情報の発信を可能とする匿名性の「功」は,高じれば「罪」ともなりうる。すなわち,記名であれば決して越えないであろう心理的障壁を易々と越えて,匿名であることを隠れ蓑に,誹謗中傷,無責任発言,故意的誤報,意見誘導,迷惑行為などに及んでしまう。記名時に課される言動責任は,匿名になれば免責されるという恣意的な思い込みが,その背景にあるように思えてならない。この問題の根深さは,いったんネットワーク上に掲載された情報は完全に削除できないため,半永久的にネットワーク上に残存することにある。(原稿用紙で315字相当)

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