■議論の整理
PISAの学習調査によれば、2012年の調査では過去最高の4位だった読解力が、2019年の調査では15位に陥落し、504点だったことがわかっている。日本人の読解力が下がったことはこのように全世界一律の点数で測定され、分析されているが、そこから派生する様々な研究の要因分析のデータ=数値はどれぐらい有意で、価値があるものか。
■問題の発見
データをとって検証することは、自然科学でも人文科学でも重要な分析手法であり、価値のあるものだ。しかし一方で、有意なデータかどうかを一般の人がより深く精査し、正誤の判断を下すのは容易なことではない。現に統計を主とする研究領域でもその有意差はまちまちであり、不明な論文も多数散見される。
■論証
研究で得られたデータに対して、統計的仮説検定を行った場合、そこから得られる情報を省略してしまうことが多い。なぜならば、そこまで細かい所を読者は気にしないからだ。検定力分析では、多くのデータが得られ、それをもとにどれくらい有意かを図るが、その際の差には以下のような様々なタイプの差がある。実質科学的な差には、例えば、100m走と5㎞マラソンで平均の差が5秒だった場合、5㎞走の平均の差が5秒であることは主だった佐賀として認知しなくてもよいが、100m走の平均の差が5秒であるならば、そこには調べるべき有意な差があることになる。同じ5秒差でも、文脈にとって意味することは異なり、その文脈を理解して初めて、その差を解釈することができる※1。
■結論
これを学力調査に当てはめて考えると、いろいろなことが見えてくるかもしれない。2012年の調査と2019年の調査では読解力が下がったということはできるが、その読解力とはそもそもどのような尺度のものか。読解力が時代にそぐう尺度になっているか。読解力が下がった代わりに得られているものはないか。様々な文脈を総合して初めて、「~~~の読解力が下がった」ということができるのであって、デジタルデバイスが進化している中での有効な指標になるはずだ。
■結論の吟味
現代においては、主に情報技術の発展とデジタルデバイスの進化に伴い、多くの読解力を図る尺度環境が変わってきている。その中で当然求められている読解力も変化せざるを得ない。学習指導要領が変更され、国語の科目も変わることが予告されている※2。その中で、読解力が下がったからカリキュラムを変更するという理念は間違っていないが、どの読解力が下がったかを見極めておかないことには、内容のない変更に陥ってしまうだろう。統計学の本質的なデータ分析を勉強し、これからの教育活動を下支えしていきたいと考え、貴学への入学を希望する。
※1鈴川由美・豊田秀樹「『認知科学』における効果量と検定力、その必要性」『認知科学』18(1)日本認知科学会 2011
※2池原一哉・豊田秀樹・岩間徳兼・鈴川由美・久保沙織・秋山隆・野口裕之「Rによる項目反応理論――はじめの一歩のその次に――」『日本教育心理学会総会発表論文集』55(0) 2013
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