■ 議論の整理
一般的に、人の国際移動の理由は経済的な要因に求められがちであるが、迫害や環境の悪化から逃れるための政治的理由による移動、旧植民地から宗主国への移動といったコロニアル、ポストコロニアルな時代背景に基づくものまで多岐にわたる。
■ 問題発見
私は、日本語教室の先生である母の紹介で、中国帰国者一世の話を聞く会に参加したことがある。終戦当時子どもだった一世のおばあさんは、混乱状態の満州で家族と死別し、中国人に助けられて養子となった経験を語った。そしてその後、紆余曲折を経て日本に帰国し、言葉や生活習慣の違いに戸惑いながら生き抜いてきたと言う。私は歴史の授業で習った知識とその人の語りのギャップに衝撃を受け、なぜ私たちが同じ日本で同時代を生きる中国帰国者の背景や問題に無関心なのか、疑問を持つようになった。
■ 論証
蘭教授は、帰国者の「生きられた世界」を知る人が少ない理由を次のように述べる。第一に、戦後日本において「満州国」は負の遺産とされ、一般にも公にも語ることがタブー視された。第二に、国交回復以降に始まる残留孤児の「訪日調査」によって帰国者の存在が再びメディアでも注目されたが、具体的な戦争に関する体験や記憶は日本人の間で、特に若い世代に対しては継承されてこなかった※。帰国者の語りを通して「マスター・ナラティブ」では扱われなかった歴史と向き合うことは、帰国者理解につながる資料の蓄積としても、大日本帝国の歴史と現在を国際関係論の視点から捉え直す作業としても重要だと考える。
■ 結論
高齢化が進む一世への聞き取り調査は、今後ますます難しくなるだろう。しかし、帝国主義や二国間の狭間で翻弄されたのは一世だけではなく、二世・三世も同様に日本語や定着の課題を抱えている。そこで、一世の経験が二世・三世の生活においてどのように継承されているかをインタビューしていきたい。
■ 結論の吟味
上記の研究にあたり、蘭信三教授のゼミに入会し、オーラル・ヒストリーの手法、マイグレーション・スタディーズについて学びたいと強く希望する。
※ 蘭信三(平成17年)「解説 中国帰国者の聞き書きを行う意義と方法」 『二つの国の狭間でー中国残留邦人聞き書き集第一集ー』 中国帰国者支援・交流センター
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