ここでは、大妻女子大学大学院人間文化研究科言語文化学専攻日本文学専修の2026年度博士後期課程一般選抜小論文について、物語文学における記憶と語りを主題にした解答例を示します。
【小論文】
【解説】
■ 設問文
日本文学史または日本語学の中で興味・関心を持つ主題を具体的に述べる設問である。20行以上の指定があり、字数指定はないため、解答例は1000字以上で作成する。
■ 設問条件の判定
日本文学史または日本語学の中で興味・関心を持つ主題を具体的に述べる設問である。20行以上の指定があり、字数指定はないため、解答例は1000字以上で作成する。
■ 解答プロセス
STEP1 議論の整理:博士後期課程の小論文として、物語文学における記憶と語りを研究主題に設定する。
STEP2 問題発見:出来事そのものではなく、過去がどの視点と時間距離で語られるかを問題にする。
STEP3 論証:『源氏物語』の人物関係、和歌、回想、沈黙を根拠に、記憶表現の重要性を示す。
STEP4 解決策・結論:先行作品、和歌、歴史叙述との比較を含む博士後期課程での研究計画としてまとめる。
STEP5 吟味:博士後期課程にふさわしく、研究対象・方法・意義が明確になっているか確認する。
【解答例】
日本文学に関する小論文として、私は物語文学における記憶と語りの問題を取り上げたい。とくに『源氏物語』を中心に、人物の過去がどのように語り直され、現在の人間関係を規定していくかに関心がある。『源氏物語』は恋愛物語として読まれることが多いが、その核心には、過去の出来事が消えずに残り、別の人物や世代に影響を及ぼす構造がある。たとえば光源氏と藤壺の関係は、単なる秘められた恋ではなく、出生、権力、罪意識、親子関係に長く影を落とす。また紫の上は、理想の女性として育てられる存在である一方、自分の人生を他者の欲望の中で形作られる存在でもある。このような人物像を読むには、登場人物の心理だけでなく、語り手が何を明示し、何を曖昧に残すかを検討する必要がある。物語文学では、出来事そのものよりも、それが誰の視点から、どの時間の距離で語られるかが重要である。読者は語り手の説明を通じて人物を理解するが、語り手は常にすべてを語るわけではない。沈黙、和歌、噂、手紙、回想などの表現が、人物の内面や社会的評価を間接的に示す。私は特に、和歌が記憶を呼び起こす装置として機能する点に注目したい。和歌は感情を直接述べるだけでなく、過去の歌や物語の文脈を呼び込み、人物の言葉を多層化する。そのため、物語内の和歌を読むことは、人物の心理だけでなく、古典的教養が人間関係を媒介する仕組みを読むことでもある。また、物語では同じ出来事が異なる人物の記憶の中で別の意味を持つ。光源氏にとって栄華の一部であった出来事が、女性人物にとっては喪失や不安の記憶になることがある。この差を読むことは、物語内の権力関係を読むことでもある。さらに、後の世代である夕霧や薫、匂宮の物語には、前世代の選択や罪が形を変えて現れる。物語は時間が進むほど過去を忘れるのではなく、むしろ過去を別の人物に背負わせる。この構造を分析すれば、『源氏物語』が単なる恋愛の連続ではなく、記憶の継承と変形を描く長編であることが見えてくる。その際、本文異同や注釈史にも目を向け、後世の読者が記憶の主題をどう受け取ったかも考察したい。博士後期課程では、『源氏物語』の記憶表現を中心に、先行する物語、和歌、歴史叙述との関係を比較したい。あわせて、語り手の評価語や時間表現を精査し、物語が過去を固定するのではなく、読み手の中で何度も再構成させる形式を持つことを明らかにしたい。この研究は、古典文学の精読を通じて、記憶、罪、継承という普遍的な問題を考える意義を持つ。
字数カウント:1038字
【小論文以外】
該当する小論文以外の設問はありません。
出典:大妻女子大学 大学院人間文化研究科言語文化学専攻日本文学専修 博士後期課程一般選抜 2026年 小論文 公式PDFをもとに作成。


