横浜国立大学 教育人間科学部 2002年 小論文 第二問 過去問 解説

1.以下の文中の問に答えなさい。(50点)

以下は、最近日本で出版された『いじめを許す心理』(正高信男、1998)という研究書の一部に基づくものである。

この研究では、日本の中学校計10校(計30クラス)の生徒に対して質問紙によ

る調査が行われた。まずはじめに表1のエピソードを読ませ、その後表2の質問に答えさせ、さらに家族関係などについての調査票にも記入させた。

 

表1

いじめの意識調査のために呈示した4つのエピソード。

それぞれで被害者のタイプが異なっている。

——————————————————————————————————————————————————————————————————————

エピソード1被害者のタイプ=肥満

Aは小さい頃から肥満体型の男の子だったが、中学生になってからはかなり太り、動作が鈍い。4、5人のクラスメートは‘デブ’、‘見苦しい’などと教科書やノートに落書きしたりした。またAが昼食に買っておいたパンをビニールの上からつぶしたり、勝手に食べてしまったりした。

——————————————————————————————————————————————————————————————————————

エピソード2被害者のタイプ=優等生

Bは成績がよい男の子で、先生の受けもよい。ただとてもまじめなので授業中、クラスメートが私語をしていたり、休み時間にお菓子を食べているとBは注意していた。そのうち4、5人のクラスメートは“自分だけよい子ぶって”と言って、Bが話しかけても無視したり、Bの教科書やノートを隠したりごみ箱に捨てるようになった。

——————————————————————————————————————————————————————————————————————

エピソード3被害者のタイプ=自分勝手

Cは自分勝手な男の子で、掃除当番をすっぽかしたり、自分が授業のノートをとっていなかったり、宿題を自分でやってこないとクラスメートから写させてもらっていた。そのうち4、5人のクラスメートは教科書を隠したりするようになった。また授業中にグループ分けがあり、たとえ座席が近くても絶対にCを誘わないようにした。

——————————————————————————————————————————————————————————————————————

エピソード4被害者のタイプ=嘘つき

Dはよく嘘をつく男の子で、友達との約束を平気で破ったりする。友達が約束を破ったと非難するとそんなことを言った覚えはないと言い張っては切り抜けていた。そんなことが続いたので4、5人のクラスメートは、遊ぶときにもDを仲間はずれにするようになった。そればかりか、嘘つき、“嘘つきと公然とののしるクラスメートもあらわれた。

 

表2それぞれ表1の4つのエピソードを読んでもらったのち、回答を求めた質問の内容。文中、「A」にあたる箇所は、エピソードごとにB、C、Dで置き換えられている。

——————————————————————————————————————————————————————————————————————

クラスメートのとった行動に対し、あなただったらどうしますか。

1クラスメートがとった行動と同じ行動を率先してとる。

2積極的には行動に出ないが、悪口に話を合わせたり、無視する程度はする。

3クラスメートの行動には関与しない、見て見ぬふりをする。

4クラスメートの行動をやめさせようと他のクラスメートに働きかける。

5クラスメートのAに対する行動を先生に報告する。

6クラスメートのAに対する行動を見たら、その場でやめさせる。

——————————————————————————————————————————————————————————————————————

表2の質問のうち、1か2を選んだ人をXグループ、3を選んだ人をYグループ、4、5、6を選んだ人をZグループとしてそれぞれのグループに属する人の割合を「いじめの報告されたクラス」と「いじめの報告されていないクラス」に分けてあらわしたのが図1である。

問1

各グループのうち「いじめの報告されていないクラス」より「いじめの報告されたクラス」で顕著に多いのはX、Y、Zのどのグループか、一つ選んでそのグループ名を○でかこみなさい。

Yグループ

 この結果と他の分析の結果から、著者はいじめがあっても黙認するか、場合によってはいじめに加わるという態度をとる人が多いクラスでいじめが多く起こると結論している。そしてこのような人をひっくるめて「傍観者」と呼んでいる。つまり傍観者の多いクラスではいじめが起こりやすく、非傍観者(傍観者以外の人)の多いクラスではいじめが起こりにくいというわけである。以下はこの傍観者と非傍観者の背景に関する分析である。

 図2は傍観者と非傍観者の平均同居者数で、図3は同居している親の平均人数、図4は同じく同居している兄弟姉妹の平均人数である。

問2

図2の平均同居者数の差はなにによると考えられるか、図3、4をふまえて答えなさい。(20字以内)

祖父母など、親や兄弟姉妹以外の同居者

問3

傍観者の家族のような家族形態は核家族と呼ばれる。核家族とはどのような家族か図2~4をふまえて説明しなさい。(20字以内)

一親等内の親類のみで構成される家族

図5は傍観者と非傍観者の背景の調査から父親の職業の分布を、また図6は母親の職業の分布を示したものである。さらに図7は傍観者と非傍観者が1ヶ月にもらうおこづかいの額の分布である。

図7傍観者と非傍観者の1ヶ月あたりのおこづかいの額の分布(グラフ中の数値は人数を表す)

問4

図5、6、7から推測される傍観者と非傍観者の生育環境の違いについて述べなさい。(150字以内)

議論の整理→不要

問題発見→問題文にて完結

論証→傍観者、非傍観者の比較から結論づけ

解決策or結論→不要

解決策or結論の吟味→不要

 

傍観者の世帯収入は父親からのみだが、高い額のおこづかいをもらっている。一方、非傍観者は父親が商工知自営や農林漁業、母親も職に就いているが、おこづかいの額は少ない。このことから、傍観者は経済的に不自由ないが家庭内での協力が少なく、非傍観者は家計を支えるために家庭内で協力し合っていると推察される。

この研究の中でノルウェーの心理学者オルヴェウスのいじめに関する説が以下のように紹介されている。

「彼(オルヴェウス)は、いじめをひきおこす要因として、親の態度といじめを行う者自体の問題の二つに注目しているのです。まず前者に関しては、母親の放任主義と父・母双方の子への高圧的な接し方をあげています。ひらたくいうと、おかあさんが子育てに興味を持たない、そのくせ両親とも子どもに頭ごなしにエラそうに接する、というわけです。

ついで、子どもの側については、気質が重要だと述べています。気質とは、要するに生来の攻撃的な気性とでも表現すべきものでしょう。だから、そもそももって生まれて気性の荒い子が、近年、子どもを放ったらかしにする親が増えたので、いじめが起こるようになったというわけです。」

問5

著者はこれまでに示された結果がオルヴェウスの説を支持しないといっている。そのように判断できる理由を「母親の放任主義」の観点と「子どもがもって生まれた気質」の観点から述べなさい。(それぞれ100字以内)

議論の整理→不要

問題発見→これまでのデータを整理

論証→不要

解決策or結論→不要

解決策or結論の吟味→不要

 

母親の放任主義

傍観者の母親の属性として、専業主婦が多く、子育てに興味をもてる環境ではある。また、おこづかい制度を設け子供に金銭を与えている層の多さからも示唆される。ただし、直接的なデータはないため、明言は難しい。

(99字)

 

子供がもって生まれた気質

『気性の荒い子』として、気に入らない相手に積極的な攻撃をする生徒と定義する。筆者の主張だと傍観者の有無といじめに相関がある。傍観者は積極的に働きかけをしない無関心な生徒なので、支持しないと判断できる。

(100字)

AO入試・小論文に関するご相談・10日間無料添削はこちらから

「AO入試、どうしたらいいか分からない……」「小論文、添削してくれる人がいない……」という方は、こちらからご相談ください。
(毎日学習会の代表林が相談対応させていただきます!)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です