2025年 慶應義塾大学SFC総合政策学部 小論文 解説・解答例
■ 問1 (600字) 60/200
「人間」とは何か、を議論せよ。
[解説]
議論の整理……(100字 5/60)
採点基準: 資料1-4への言及(各1)、名前と紹介が書かれていれば+1
資料1では社会心理学者のエーリッヒ・フロムが、近代の産業社会では労働が組織化され、個々の労働者は使い捨ての機械部品のように扱われ、愛の発達を阻害されているとしている。資料2では、宗教者のアルボムッレ・スマナサーラが、人間のあらゆる問題は考えることから生まれているとしている。資料3では、権力者のマルクス・アウレーリクスが人の実質は流転するものであるとしている。資料4では創作者のシェイクスピアが人の世の儚さを嘆いている。
問題発見……(100字 5/60)
採点基準: 「人間」とは何か、を議論せよ(1) +AIなど新しい社会の進歩を前提としている(4)
その上でリード文にもあるように、我々の生物としての元来の能力を大きく上回る、また向上させうる力を持つ科学技術が「生成AI」「大規模データー分析」という形で社会に実装させつつある。そうした中で、人間を人間足らしめてきた知性、社会性などの位置づけがこうした技術の実装とともに大きく変わりつつあり、「人間」とは何か、を議論する上でも大きく影響を及ぼしつつある。
論証……(200字 40/60)
採点基準: 演繹法・背理法・帰納法・なぜなぜ分析・言い分方式などの論証方法を使っている(10)、人間の多義性・多面性に触れている(各5)、論証の方法に独創性がある(20)
ここで、生成AIや大規模データー分析の誕生は人間を人間たらしめてきた知性や社会性に大きな影響をもたらしている。たとえば、知性についていえば、AIを超える知性を人間が持つことは難しいだろう。また社会性について行っても、人間が大事にしてきた身近な人との関わりによってよりも、大規模データー分析でサジェストされる同僚や恋人・結婚相手のほうが良いパフォーマンスを生み出せるかもしれない。そうした中での人間の役割とはどのような部分にあるのか、という問いに対する答えが、まさしくこのAI全盛時代においての「人間とは何か」という問いに対する答えになると私は考えている。
結論……(100字 5/60)
採点基準: 「人間とは何か」という問いに対する答えになっている(2)、その問への答えに独創性がある(3)
たとえば、生成AIや大規模データー分析が分析や学習の対象にするのは公開されている、もしくは収集可能なデーターである。つまり、公開されていなかったり収集不可能なデーターに基づいて判断することはできない。また確率論を超えた激励を人に与えることもこうした最新技術には難しいだろう。何か将来の未知の事象に対して責任を負うことも最新技術にはできない。これらを行うことが人間を人間たらしめる理由になると私は考える。
吟味……(100字 5/60)
採点基準: 貴方が貴方に与えられた生きる時間を費やして目指したい「人間」のありようも併せて述べる(2)、その問への答えに独創性がある(3)
その上で、私自身も人が打ち明けがたい本心を理解できる人、確率などの根拠なく人を信じること、未確定の未来の責任を負える人になりたいと考えている。そのためにそれを実現するための経済力や人間としての人間性を身につけることが私が私に与えられた生きる時間を費やして目指したい人間としてのありようである。
[解答例]
資料1では社会心理学者のエーリッヒ・フロムが、近代の産業社会では、個々の労働者は使い捨ての機械部品のように扱われ、愛の発達を阻害されているとしている。資料2では、宗教者のアルボムッレ・スマナサーラが、人間のあらゆる問題は考えることから生まれているとしている。
その上でAIの発展などの中で、人間を人間たらしめてきた知性、社会性などの位置づけがこうした技術の実装とともに大きく変わりつつあり、「人間」とは何か、を議論する上でも大きく影響を及ぼしつつある。
たとえば、知性についていえば、AIを超える知性を人間が持つことは難しいだろう。また社会性について行っても、人間が大事にしてきた身近な人との関わりによってよりも、大規模データー分析でサジェストされる同僚や恋人・結婚相手のほうが良いパフォーマンスを生み出せるかもしれない。そうした中での人間の役割とはどのような部分にあるのか、という問いに対する答えが、まさしくこのAI全盛時代においての「人間とは何か」という問いに対する答えになると私は考えている。
たとえば、最先端技術では、確率論を超えた激励を人に与えることもこうした最新技術には難しいだろう。何か将来の未知の事象に対して責任を負うことも最新技術にはできない。これらを行うことが人間を人間たらしめる理由になるため、私はこうした事ができる人間を目指したいと考える。
(589文字)
■ 問2 (600字) 60/200
「人間」は「未来社会」においてどう生きるべきかを議論せよ。
議論の整理……(100字 5点)
採点基準:資料5で表現された「未来社会」を批評:良所は評価し、限界は指摘し、依拠しすぎない、理由や根拠を示した上でその作品の優劣を評価する(1)、あなたが考える未来社会の特性に言及(1)、資料6・資料7にふれる(1*2)、未来社会の先導者(1)
資料5の「未来社会」については量子コンピューティング、エネルギー問題、医療、食糧供給などあらゆる部面で技術が加速的に進歩し、人々の生活が改善している未来を描いている。メタバースや金融、スマートシティについても同様である。一方で、これらの進歩を阻害する政治的理由でこれらの進歩が停滞するビジョンは採用していない。現実の社会ではこのような反発で社会の進歩が阻害される可能性も十分あり、私は未来社会の先導者としてこのような未来に向けて技術発展のためのロビイングが非常に重要になると考えている。資料6-1の「民主主義のルネサンス」資料7のテーマ3の「過去10年間の米国の相対的な高パフォーマンスは持続しない」はそうした問題意識を背景にしている。
問題発見……(100字 5点)
採点基準:「人間」は「未来社会」においてどう生きるべきかを議論せよ。(問に答えてる2点、さらに新しい問いにし独創性がある3点)
その上で、私は「人間」は「未来社会」においてロビイストとして生きるべきだと考える。その理由とより詳細なあるべき人間像についてここでは議論したい。
論証……(200字 40点)
採点基準: 演繹法・背理法・帰納法・なぜなぜ分析・言い分方式などの論証方法を使っている(10)、適切な引用がなされている(10)、論証の方法に独創性がある(20)
まず、我々が生きている社会は法の支配が行き届いた、法治国家である。法治国家であるということは、あらゆる技術を社会実装する際には、それに伴う法整備が必要になる。これなくしてはどのような最新技術も社会実装することはできない。一方で、我々は法の支配が行き届いた社会に住んでいる。法の支配とは、我々自身は自然法思想の元で我々のあるべき幸福を追求する権利を持っているということだ。この幸福追求権をベースに、無人タクシーや大規模データー分析の際に個人と紐付いたデーターの活用に対して必要な法整備やセキュリティ・プライバシー保護制度の実装を行うロビイストになりたいと考えている。
結論……(100字 5点)
採点基準:問に対して答えている(1)、独創性がある(4)
こうしたロビイストとして生きるのは、私一人ではなく、多くの人がロビイストとして社会をより良くするために発言力を持つ社会が理想的である。そのためには社会制度の変革について、例えば行政のお金の使い方から道路工事の必要性の有無についてまで、人々が参加型の民主主義で声を上げ、自らの意見を地方や国の行政に反映できる電子政府の仕組みが必要である。人々は直接民主主義的な電子政府の一成員として生きることになる。
吟味……(100字 5点)
採点基準:起こる可能性があるハーレションに言及している(1)、対応方法は現実的(2)、対応方法に独創性がある(2)
こうした取り組みは、大衆迎合に陥る危険性もあるが、国債の発行などについては金利がその歯止めになるため、こうした金融の仕組みも活かせば、大衆迎合的な政治が危険水域に達することなく、それでいて透明性の高い政府が実現でき、人々の意見もより政府に反映されるようになる。人間はその一成員として自らの存在価値を感じながら生活することができるようになるだろう。
[解答例]
資料5の「未来社会」については量子コンピューティング、エネルギー問題、医療、食糧供給などあらゆる部面で技術が加速的に進歩し、人々の生活が改善している未来を描いている。一方で、現実の社会ではそうした技術への反発で社会の進歩が阻害される可能性も十分あり、私は未来社会の先導者としてこのような未来に向けて技術発展のためのロビイングが非常に重要になると考えている。資料6-1の「民主主義のルネサンス」資料7のテーマ3の「過去10年間の米国の相対的な高パフォーマンスは持続しない」はそうした問題意識を背景にしている。
こうしたロビイストとして生きるのは、私一人ではなく、多くの人がロビイストとして社会をより良くするために発言力を持つ社会が理想的である。そのためには社会制度の変革について、例えば行政のお金の使い方から道路工事の必要性の有無についてまで、人々が参加型の民主主義で声を上げ、自らの意見を地方や国の行政に反映できる電子政府の仕組みが必要である。人々は直接民主主義的な電子政府の一成員として生きることになる。
こうした取り組みは、大衆迎合に陥る危険性もあるが、国債の発行などについては金利がその歯止めになるため、こうした金融の仕組みも活かせば、大衆迎合的な政治が危険水域に達することなく、それでいて透明性の高い政府が実現でき、人々の意見もより政府に反映されるようになる。
(587文字)
■ 問3 (600字) 80/200
「未来社会」において「人間」の先導者を目指す学生は、SFCでどう時間を過ごすべきか、貴方の考えを教えて下さい。
議論の整理……(100字 5点)
採点基準: 2つの問題の答えに触れている(2)、それぞれから導かれた問題の捉え方に独創性がある(3)
問1では確率論を超えた激励や未知の未来に責任を負うことが人間を人間たらしめる理由であるとした。問2では人間は未来社会において一人ひとりが直接民主主義的な電子政府の中でロビイストとして生きるべきだとした。
問題発見……(100字 5点)
採点基準: 問題に触れている(1)、問題の捉え方に独創性がある(4)
その上で、一人ひとりの人間が自分自身の属する国家やそれを管理する政府に関心と責任を持てるようになるために、「未来社会」において「人間」の先導者を目指す学生は、SFCでどう時間を過ごすべきかについて考えたい。
論証……(200字 60点)
採点基準: 演繹法・背理法・帰納法・なぜなぜ分析・言い分方式などの論証方法を使っている(10)、適切な引用がなされている(10)、論証の方法に独創性がある(40)
まず、SFCが他の大学学部と比べて特異な点として、SFCは学際融合型の学部であり、ある学問分野が前提としてあり、その学問分野の知識を活かして社会の問題を解決していく学部ではなく、むしろ社会の問題があり、それを解決していくためにはどのような学問分野が必要であるかを考える学部であるということである。ここで電子政府のことについて考えると、電子政府を実現するために必要な民主主義のあり方についての知識や、直接民主主義的な実践を行っている自治体との協力関係の構築、こうした仕組みを実装するためのエンジニアリングの知識がSFCで学ぶべきことになるだろう。
結論……(100字 5点)
採点基準: 問に対して答えている(1)、独創性がある(4)
こうした必要な知識や人間関係を講義や研究会などを用いて、同時並行的に、かつ自らの理想とする電子政府のあり方が、例えば過疎地域における道路補修の優先順位をつけるためのGoogle mapを利用した地域住民向けの掲示板システムのようなごくごく小さい規模の実践であっても卒業研究として実践できるような形をつくっていくことが、「未来社会」において「人間」の先導者を目指す学生は、SFCでどう時間を過ごすべきかという問いに対する答えになると考える。
吟味……(100字 5点)
採点基準:起こる可能性があるハーレションに言及している(1)、対応方法は現実的(2)、対応方法に独創性がある(2)
こうした実践に際しては、常に地域住民のプライバシーの問題や、役所と住民間の熱意の違い、様々な妨害活動をする業界団体の問題などもあるが、私はSFC入学希望者の一人として、こうした問題を一つ一つ慶應SFCで解決していきたいと考えている。
[解答例]
問1では確率論を超えた激励や未知の未来に責任を負うことが人間を人間たらしめる理由であるとした。問2では人間は未来社会において一人ひとりが直接民主主義的な電子政府の中でロビイストとして生きるべきだとした。
その上で、一人ひとりの人間が自分自身の属する国家やそれを管理する政府に関心と責任を持てるようになるために、「未来社会」において「人間」の先導者を目指す学生は、SFCでどう時間を過ごすべきかについて考えたい。
まず、SFCが他の大学学部と比べて特異な点として、SFCは学際融合型の学部であり、社会の問題があり、それを解決していくためにはどのような学問分野が必要であるかを考える学部であるということである。ここで電子政府のことについて考えると、電子政府を実現するために必要な民主主義のあり方についての知識や、直接民主主義的な実践を行っている自治体との協力関係の構築、こうした仕組みを実装するためのエンジニアリングの知識がSFCで学ぶべきことになるだろう。例えば過疎地域における道路補修の優先順位をつけるためのGoogle mapを利用した地域住民向けの掲示板システムなどを作りたい。
これが「未来社会」において「人間」の先導者を目指す学生は、SFCでどう時間を過ごすべきかという問いに対する答えになると考える。
(564文字)
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