慶應義塾大学SFC 総合政策学部 小論文 解説 2015年

=総合2015=

問題

 慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部では、2014年度からの新カリキュラムで「データサイエンス」を、「言語コミュニケーション」「情報技術」「ウェルネス」と並び必須の履修科目と位置づけています。この背景として、現代社会では、様々なデータを収集・分析し意思決定することで、証拠に基づく間題発見・解決の能力を身につけることが、今まで以上に重要視されていることが挙げられます。
 両学部のデータサイエンス教育では、学生が自分自身でデータを上手に集めて適切に分析し、様々な意思決定ができるようになることを目指しています。ここでいうデータには、数値だけではなく、文字や映像・音なども含みます。
 現実に存在する問題を発見し解決するためには、様々な場面で意思決定が必要となります。しばしば、将来が予見できないとか、想定外の事象が起きるなどといった不確実な状況の下で意思決定を行うことがあります。「不確実さ」を数量的に表現するために確率が用いられます。そのため確率の概念を理解することは社会科学の分野でも重要です。そして意思決定を支援するために、収集されたデータを分析した結果が用いられます。データの分析には、統計学を理解する必要があります。
 そのため確率と統計は、データサイエンスの根幹となる学問分野として位置づけられています。
 この問題は、総合政策学部で学び、研究を行う上でデータサイエンスを修得することの重要性について、みなさんに考えてもらうことを目的としています。
 資料1は、17世紀後半から20世紀初頭における、統計学の歴史とその時代背景を説明したものです。
 資料2は、20世紀後半以降の統計学をめぐる状況を紹介したものです。
 資料3と4は、同じ統計学者によるものです。資料3では社会科学における「数量的把握」の意味について、資料4では統計学の立場から経済学などの関連した問題について、それぞれ論じられています。
 資料5と6は、太平洋戦争開戦時の意思決定とデータとの関係を論じています。資料5は太平洋戦争開戦時に国家の重要政策や物資動員の企画立案を担った当時の企画院の鈴木貞一総裁に対するインタビューです。資料6は、太平洋戦争における旧日本軍の組織としての失敗に関する学際的共同研究を行った成果をまとめたものです。
 資料7では、裁判における確率統計の誤用例が紹介されています。
 資料1~7を読んだ上で、以下の3つの問に答えて下さい。

問1
 資料1~7は、意思決定を行う際に、データを収集し分析することの利点およびその難しさと限界について述べています。資料1~7のなかから重要だと思う資料を2つ挙げて、データを用いることの利点およびその難しさを、それぞれ200字以内で要約し述べて下さい。

問2
 以下のボックスに示された社会的課題は、データを収集・分析し、意思決定することにより解決可能と考えられます。
(1) 生活習慣病の予防や健康管理による医療費の適正化
(2) 保育所の待機児童解消や男性の育児参加促進による子育て支援
(3) 選挙区の区割り改定による一票の格差是正
(4) 外国人観光客の誘致による雇用促進
 このうち、あなたが最も関心のある課題を一つ選び、その番号を解答欄○に記入してください。そして、その問題の現状と課題を示すことができる定量的な指標を提案し、その指標の定義を解答欄に記述してください。ここで、定量的な指標は以下の例を参考にし、例に示された以外の指標を提案してください。
 さらに、その指標をあらわす上で必要な資料やデータの収集方法を解答欄に記述してください。
(300字)

問3
問2で提案した指標を用いて問題解決のための意思決定を行う上で、どのような限界があると思
うか、考えを述べてください。(300字}

問一(50/200)

 選ぶ資料については、個別具体的なものは極力排し、抽象的なものでかつ統計学の概要・利点の紹介と、問題の提起をかね備えているものを用いる。

2論点の紹介、各論点15×2で30点満点、その後具体例の紹介20点、主語・対象語・動詞抜け、漢字間違い、送り仮名間違い(-1)、論理飛躍各-1、接続詞、体言止め、文法・漢字・送り仮名ミス-1

資料2,(利点を述べている)
資料2においては、正確が作られた統計が正しい意思決定に資するのに対し、恣意的に作られた統計が間違った意思決定を生み出す危険性についても触れている。こうした問題は、戦前のみならず今日においても起こりうるものである。一例として、かつてベイズ統計は事前の確率を主観により決定してしまう危険性から敬遠された。この解決策or結論として、事後の確率が事前の確率に影響を受けないシュミレーション技術なども開発された。(198文字)
資料7,(難しさを述べている)
資料7にあるように、統計学では裁判でも用いられるほどに重用されているものの、誤った確率の用い方により冤罪が生まれる可能性もある。こうした統計学の誤用を防ぐために、様々な方法により誤った統計学の利用を防いでいる。検察側が統計学を使うのと同時に、弁護側も統計学を用い、その統計の真偽を議論することにより統計学の誤用を防がなければ統計学は正確な意思決定に資さないこともある。(185文字)

問二(50/200)

定量的な指標の提案と、その指標の定義、その指標を表す上で必要な資料やデーターの収集方法(300字)

※ サイト編集の関係上数式を入れていませんが、本設問では一行程度の数式を書いたあとに、それについての解説を下記原稿で書く形になっています。

定量的な指標の提案、その指標の定義、必要な資料やデーターの収集方法各10点、新規性10点、緻密性5点、実効性5点、主語・対象語・動詞抜け、漢字間違い、送り仮名間違い(-1)、論理飛躍各-1、接続詞、体言止め、文法・漢字・送り仮名ミス-1

(1)生活習慣病の予防や健康管理による医療費の適正化
 現状の医療費が必ずしも適正に徴収されていない状況を解消するために、医療費の適正化を図るための指標として、健康診断時の体脂肪率や一ヶ月の喫煙量などの変数を用いて、自らが支払っている医療保険費よりもどれぐらい多くの医療費を使うか、あるいは使わないかを指標として表したい。また、こうした変数に基いて保険料を変える解決策or結論を提案したい。これにより、健康管理に気をつけている人は、高所得でも安い医療保険料で済み、一方健康管理をしていない人は低所得でも高い保険料を支払わざるを得なくなる。結果、多くの人々は健康管理に気をつけるようになるだろうし、全体としての医療費も抑制方向に向かうだろう。(287文字)
(2)保育所の待機児童解消や男性の育児参加促進による子育て支援
 保育所の待機児童解消のために、保育所の定員に対する入園希望者の倍率を求めたい。保育園の定員については、地方自治体に届けられた数字をそのまま足せば良いが、入園希望者の計算には問題がある。入園希望者は必ずしも現状の入園申し込み人数とは一致しないからだ。現状の待機児童問題を鑑みて、本当は入園を希望していても子供を家族に預けたり就業を断念したりする例も多々ある。そのため、育児世帯に一年に一度ほど係員が訪問調査をし、保育園への入園希望を調査する必要がある。こうした潜在需要も含めた統計調査により、保育所の待機児童が実際にはどれほど大きな問題であるかが判明するだろう。(281文字)
(3)選挙区の区割り改定による一票の格差の是正
選挙区の区割り改定による一票の格差の是正のために、自分が住んでいる選挙区の一票の価値が、全国平均とくらべて何票分の価値があるかを明らかにしたい。そのためには、まず全国の人口を全議席数で割り、議員一人が有権者何人分の代表であるかを明らかにする必要がある。ついで、自分が住んでいる選挙区の有権者数と輩出議員数を把握し、その比を求める必要がある。有権者数については国勢調査などの情報を参照する。これにより、自らが住んでいる選挙区においては一票の価値が全国平均と比べて高いかどうかが分かる。 結果、一票の価値が低い選挙区においては、国民として平等に扱われていないということで格差是正を求める声が上がるだろう。(300字)
(4)外国人観光客の誘致による雇用促進
現状、外国人観光客による経済効果は乏しいように思われる。事実、日本から出国する海外旅行者の方が日本に入国する海外旅行者より圧倒的に多い。このため、日本では外国人観光客の誘致による雇用促進に困難になっている。このような現状を解決するため、外国人観光客がもたらした経済効果により、どれほどの雇用が生まれたかを示す指標を作る。まず、GDP全体のうち、外国人観光客がもたらしたものを計測する。これは、銀聯など 海外旅行者のみが使えるカードの利用金額の累計から算出する。次に日本の全就労人口に、外国人観光客による取引のGDP比率の伸び率を掛け、外国人観光客の誘致による雇用促進がどれほど進んでいるかを試算する。

問三(100/200)

問二で提案した指標を用いて問題解決のための意思決定を行う上で、どのような限界があるか(300字)

限界(問題発見)15点、その結果起こること(論証)15点、解決策(結論)15点、切り口の新規性25点、その結果起こることの緻密性15点、解決策の実効性15点、主語・対象語・動詞抜け、漢字間違い、送り仮名間違い(-1)、論理飛躍各-1、接続詞、体言止め、文法・漢字・送り仮名ミス-1

(1)生活習慣病の予防や健康管理による医療費の適正化
 健康管理についての変数が抱える問題は、こうした指標を保険料の決定に用いることにより、保険料が高くなった人が、年金保険料を支払わなくなり、結果としてより多くの負担が生活保護などのセーフティーネットにかかる可能性がある。またこうしたモラルハザードが起きると、それが健康管理をしっかりしている層にまで波及し、結果としてセーフティーネットとしての生活保護や公的年金保険・医療保険におよぶまでのほぼすべての社会福祉が制度として継続不可能になる可能性もある。こうした問題を解決するためには、健康管理指標が良好であろうが良好でなかろうが、強制的に保険料を徴収できるシステムを構築する必要がある。(291文字)
(2)保育所の待機児童解消や男性の育児参加促進による子育て支援
保育所の定員に対する入園希望者の倍率が抱える問題は、入園希望者の倍率は現状のものであって、数年後までの数値予測は含まれないということだ。通常、保育園の建築は、数年後までに投資が回収できるかを加味して決定される。現状入園希望者が保育園の定員よりも多いとしても、出生数などから今後保育園への需要減少が見込まれる場合は保育園の建設は出来ず、結果待機児童問題は解消されない。この問題を解決するためには、潜在需要も含めた正確な統計の作成とともに、単年度で投資回収できるテナント型保育園などに対する規制を緩和することにある。現状の入園希望者の倍率のみを見て投資ができれば、待機児童問題は緩和されるだろう。(297文字)
(3)選挙区の区割り改定による一票の格差の是正
自らが住んでいる選挙区においては一票の価値の計算は、選挙区内の立候補者の質に対する検討がなされていないという点で限界がある。たとえば、ある選挙区では、特定の宗教法人から支援を受けている有力政治家と、過激な排外主義・共産主義を掲げる政党の政治家しか立候補していないという例がある。こうした選挙区においては、有権者の投票率は低くなる傾向がある。こうした選挙区に対しては、無選択肢ダミー変数を加えるなどして分析し、こうした選挙区が選挙区全体の一割を超える場合には、多様な選択肢を保証する中選挙区制・大選挙区制に選挙制度を改める、供託金を廃止するなどの対応が法の下の平等を保証する上では必要不可欠である。(299文字)
(4)外国人観光客の誘致による雇用促進
外国人観光客の誘致による雇用促進についての変数の問題は、こうした変数が雇用の質的な部分について考慮していないという点にある。たとえ、中国人観光客による経済効果により新たに10万人の雇用が生まれたとしても、その10万人の内訳が今後の日本の観光立国の行方を大きく左右する。例えば、中国人観光客の旅行先が神社仏閣であれば、10万人の新たな雇用は日本の伝統宗教の維持存続に資するが、旅行先が飲食店である場合には、新たな10万人の雇用が文化財保護の上で果たす役割はほとんどなく、観光資源もほとんど残らない。このようにフローとしての雇用促進とストックとしての雇用促進には大きな違いがあるため、検証の必要性がある。(300字)

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