慶應義塾大学SFC 総合政策学部 小論文 2007年 解説

・ 問題文

問題
資料1,資料2,資料3は,「議論の本位」とは何を意味するのかについて述べた文章です。また資料4,資料5,資料6は「少子化」(A)について,資料7,資料8,資料9は「格差社会」(B)について、それぞれ3人の論者が自分の主張を披歴した文章です。これらの文章を読んで次の問いに答えなさい。
問1
まず「少子化」(A),あるいは「格差社会」(B),どちらかのテーマを選択し,選択したテーマの記号(AあるいはB)を,解答欄冒頭に与えられたカッコ内に記しなさい。
次に,選択したテーマを論ずる3つの文章(「少子化」(A)を選択した場合には,資料4,資料5,資料6,「格差社会」(B)を選択した場合には,資料7,資料8,資料9)の内容を分析し,当該テーマを論ずる際に定めるべき「議論の本位」は何かまた「議論の本位」を定めたうえで(あるいは定めるために),検討すべき主たる「議論の箇条」は何かあなたの考えを1000字以内で記しなさい。
問2
問1で考察した「議論の本位」と「議論の箇条」を踏まえ選択したテーマを論ずる3つの文章のうちどの文章の主張にあなたは賛成するか(あるいはいずれの主張にも賛成しないか),その理由を含め500字以内で記しなさい。
なお「議論の箇条」を,「争点」あるいは「論点」と読みかえてもかまいません。

・ 問題の読み方

まず、「少子化」と「格差社会」のどちらを問題とするかについてだが、「少子化」が解決可能であるのに対し、「格差社会」は資本主義社会である以上格差があるのは当然のことなので、解決が原理的にむずかしい。

そのため、「少子化」を選ぶべきである。

また、問一については、「議論の本位」が小論文の5STEPsでいうところの議論の整理内の共通の前提・共通の理想であること、「議論の箇条」が5STEPsでいうところの議論の整理内の議論の論点であることを把握しておくと解きやすい。

他にも問二については、基本的にはすべての議論の反対すべきである。自分の意見を論理的に主張するためには、課題文の意見にはすべて反対という立場を採っていたほうが有利である。なぜならば、そうすることにより自分の論の構成が独自のものとなり、論理的整合性さえあれば評価が高くなるためである。一方、課題文の意見に賛成した場合には、そのようにはいかない事が多い。

・ SFC小論文に求められる解答の指針

基本的には、経済学・政治学・法学などの様々な学問分野の視点からの、論証や利害関係者検討が出来ると良い。

・ 模範解答

「問1」

議論の整理→

現在の社会では、「子どもを産む」ことについての選択は個々人に任されている。これまでは、結婚はして当然というような考え方があった。そして、「女性は家庭で子どもを産み育てるもの」という価値観が主流であった。
しかし、現在ではこの価値観に変化が生じている。女性が多様な選択をするようになった。これには様々な理由がある。ひとつは、女性の就職が当たり前になったことで、共働きの家庭が増えたことが挙げられる。また、女性にとって、「子どもを育てること」を自己実現の場とするのではなく、男性と同じように仕事を自己実現の場と捉えるようになったことも考えられる。このような場合、女性が子どもを産んで育てることは難しい。保育園や幼稚園に入園させることが満足にできていないからだ。こうした背景から、まずはこうした施設の整備が何よりも必要である。

問題発見→

このように女性の価値観の変化により、子どもを産み育てることが難しい社会に変化してきている。
その一方で、政府としては、一定の社会基盤を維持する必要がある。したがって少子化は解決しなければならない問題だ。政府は税金を使って、国民が幸せな暮らしをするための社会基盤を実現しようとしている。例えば、交通網の整備や年金制度などは個人ではなかなか実現できない。また教育は、個人でも一定のレベルまでは到達できる。しかし、社会全体で高い水準を維持する方が、結果的に日本全体の成長につながる社会基盤である。このように、社会基盤は個人に任せると実現することが難しいものも多い。個々人が幸せに暮らすためには、政府の関与が全く必要ないとも言い切れない。少子化による働き手の減少によって税収が減ることで、政府が実現できる社会基盤の範囲は限られてくる。少子化がこのまま進めば税収が少なくなり、必要最低限の社会基盤さえも維持できなくなってしまう。
このように、少子化問題の議論の本位については、少子化が進むなかで、個人の価値観に任せていては実現困難な社会基盤をどのように維持するかということである。よって、少子化問題を議論するための論点は、「子どもを産み育てることができる社会基盤つくりをいかにしてなしとげるか」である。少子化による働き手の減少によって税収が減ることは避けられないものとして、男女が共働きになっても子どもを産むことをためらわなくなる環境を作る必要がある。

「問2」

議論の整理・問題発見→

これまでは、男女は結婚するのが当然であり、「女性の役割は家庭で子どもを産み育てるもの」というような性別役割分業などが主流の価値観だった。しかし現在では、「子どもを産む」ことについての選択が個々人に任されている。

論証→

この価値観の変化の原因は、社会が親に対して、子どもを産み育てる動機付けができていないことが考えられる。動機付けができていないのも、子どもの養育に対しての費用対効果が悪いことが原因のひとつだ。例えば子どもが大学を卒業するまでにはかなりのお金と時間がかかる。しかしお金をかけても保護者が得をすることはない。したがって、子どもをたくさん産まないという選択をする人が増えているのが現状だ。
また、現在は共働きの家庭が増えている。そして今の世の中の状況を見てみると、女性が子どもを産んで育てることは難しい。保育園や幼稚園に入園させることが満足にできていないからだ。夫婦が共に働き、子育てができる環境が整っていないので、女性が子どもを産みにくくなってしまっている。

解決策or結論→

そこで、少子化について書かれて資料4から資料6までのうち、資料4と資料6のような解決策or結論を提案する。具体的には、資料4の「待機児童ゼロ作戦」のような、保育関係事業の強化や、資料6のように、夫婦共働きでも共に子育てができる社会を目指すことだ。

解決策or結論の吟味→

少子化によってすでに働き手は減少している。その中で、昔のように「女性は家庭で子どもを産み育てるだけだ」という価値観では、税収の減少などを考えたと
きに日本経済を維持するのは難しい。男女が共に働いて、行政が仕事と家庭・子育ての両立支援を行っていくことが重要である。

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