・ 問題文
問題 世界や日本のいたるところで,政治や経済や社会のさまざまな局面で,既存の秩序が崩壊したり揺らいだりしています。この状況を,人は,“変革の時代”とも“転換期”ともいいます。しかし,また,時代の節目の向こうが未だ見えない“不確定性の時代”ともいえます。
未来を構想し切り拓くには,一見混沌とした状況を洞察する知的心構えが必要です。以下に示す2つの文章は,そうした状況について。それぞれの見方を提供しています。これから大学で学び,やがて未来にはばたいていくきみたちは,どのような知的心構えを持とうとしているのでしょうか。提示されたそれぞれの文章の論点に言及しながら,きみ自身の考えを1000字以内で述べなさい。
・ 問題の読み方
2010年の環境情報学部などもそうだが、あるべき知的心構えを問う問題というのはむしろ、どのような知的心構えがいけないのかを問う問題である。知的心構えについての課題文を整理し、特定の知的心構えを問題視し、そうした知的心構えが生まれる原因を分析し、そうした知的心構えを克服するための知的心構えを提案し、それを吟味する必要がある。
・ SFC小論文に求められる解答の指針
SFC的な教育(脱近代・脱暗記・自分で考える・多くの知を集めるなど……)に対してポジティブな知的心構えを書くと良い。
・ 模範解答
議論の整理……
「カオス系」「非カオス系」はいずれも、未来を想定するシュミレーションの際に使われる概念の一つである。
「非カオス系」においては、各々の選択肢を経るごとに誤差が少しずつしか拡大しないため、入力はそのまま出力に比例する。一方、「カオス系」においては、各々の選択肢を経るごとに、誤差が急速に拡大するため、初期の入力でのわずかな誤差が、出力における非常な誤差として反映される。
たとえば、前者の典型例は漢検の受験であり、努力投入量がそのまま結果に反映される。一方、後者の典型例は新規事業の立ち上げであり、初期の微細な違いが後々の非常な差として反映される。
……実際、このようなまとめをするには、課題文を読むだけでは足りず、リンガメタリカの暗誦などを通じてあらかじめ知識を整理しておく必要がある。課題文の中で、参考になる箇所を以下紹介する。
カオス現象の本質的特徴は,誤差が少しでもあると,それがどんどん時間とともに発展し,大きくなることである。このようすを具体的に見るために,まず,非カオス系の例一単振り子の運動一からはじめる。まったく同じようにゆれている2つの同種の振り子の一方に対して,少しだけ運動を乱す。少し歩調の乱れた両者の差一つまり,位相の差一は,振り子がゆれているあいだじゅう,小さいままにとどまる。
問題発見……
高校までの学習内容は、主に非カオス系への働きかけであるといえる。例えば、漢字の学習にせよ英語の学習にせよ、努力投入に対する成果は極めて明確に想像しうる。一方、大学での学習内容は、主にカオス系への働きかけであるといえる。経済学のの議論であれ、法律改正の議論であり、様々な要素が様々な動きを見せる不安定な環境に対して働きかけるものである。
こうしたカオス系に対して働きかける大学の学問において、最も忌諱すべき知的心構えは、教員の持論をそのまま鵜呑みにするというものである。教員の持論は、当該の環境に対しての働きかけであるからこそ意味を持ちうるもので、今後の状況変化に応じては別の持論なり解決策or結論なりが必要になる可能性が極めて高いからである。
……「なにが理想的な心構えか?」という問いに対しては無数の答えがあるため、まずは「なにが忌諱すべき心構えか?」という問いから始めたほうが良い。
論証……
そもそも、教育の持つ解決策or結論をそのままトレースするような学習は、教員がその解決策or結論に至ったまでの思考のプロセスを無視している。
だが、カオス系の問題解決においては、入力される条件は時と場合により大きく変わる。なおかつ、初期の入力条件の違いは、大きな出力の差となって現れる。この二点に留意した場合、教員から学生が学ぶべきなのは、解決策or結論そのものではなく、ある入力があった場合に、適切に出力を想定するプロセス・考え方であることは明確である。
……なぜなぜ分析ではなく、さまざまな要素を踏まえた上での論証。こういった書き方をすることもある。
解決策or結論……
よって、大学においては、教員が持つ解決策or結論ではなく、問題解決の技法を学ぶという心構えを持つべきであると私は考える。
解決策or結論の吟味……
実際、学生がこのような心構えを持って学ぶことにより、教員の持論に対しての建設的な批判が学内にも数多く生まれ、それが教員自身の持つ論の質をますます向上させる。このように、学生が健全な批判精神を持って勉学に臨むことで、大学における全ての利害関係者を大きく利する可能性は高い。
……解決策or結論の吟味については、利害関係者の利害を踏まえた上で書いている。
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