慶應義塾大学SFC 環境情報学部 小論文 2010年 解説

問題1 資料Aは三つの部分、Aー1、Aー2、Aー3からなっています。Aー1に書かれている電子的な図書館がもし実現するとしたとき、Aー2とAー3に基づいて、将来の電子的な図書館が日本語に与える影響を考察して500字以内で論じなさい。

問題2 資料Bにも三つの部分、Bー1、Bー2、Bー3があります。それらの資料に基づき、印刷した書物と電子テキストを比べて、電子テキストの長所と短所を300字以内でまとめなさい。

問題3 資料Aと資料Bの内容を総合して考察し、皆さんが大学に入学して学習・研究を進める立場に立った時に、印刷された書籍の図書館と比べて、電子テキストなどを収めた将来の電子的な図書館はどのような意味を持ち、どのように使うのが望ましいかを700字以内で論じなさい。

・ 問題の読み方

 まず、問題を解く流れとして、問二で電子テキストについてまとめたあと、それのもたらす言語への影響を問一で考察し、最後に問三で電子的な図書館の望ましい使い方についてまとめると良い。

 問二では、電子テキストの特徴をまとめた上で、それをポジティブに解釈した長所とネガティブに解釈した短所をまとめると良い。

 5STEPsの「議論の整理」の「共通の前提」と「議論の論点」を使う形になる。

 次に、問一は日本語に与える影響を論じなさいという問題。

議論の整理……電子的図書館の説明と、電子的図書館が日本語に与える影響についての議論の紹介
問題発見……その中で何が問題になるかの提起
論証……その原因の分析
解決策or結論……その結果どうなるか解決策or結論の提起
解決策or結論の吟味……利害関係者や他の解決策or結論の検討

 また、問三については「望ましい大学での電子図書館の使い方」とあるが、これを5STEPsで展開するためには、問題提起の段階で望ましくない電子図書館の使い方を提起しなければならない。つまり、

議論の整理……電子図書館についての説明
問題発見……大学での研究における電子図書館の望ましくない使い方はなにか?
論証……その原因は何か?
解決策or結論……その原因を潰すための解決策or結論は何か?
解決策or結論の吟味……その解決策or結論の吟味

・ SFC小論文で求められている解答への指針

 問二についてはただ読みやすさが求められるのでいきなり長所短所を書かずに、まずはどんな特徴があるかを書き、その上で長所短所をそれぞれポジティブな側面からの解釈・ネガティブな側面からの解釈として書くべきである。

 また、問一については、英語が支配的になるというよくありがちな解答はなるべく避けたほうがいい。現状、英語がなぜ支配的な言語なのかというと、それは覇権国家の言語だからである。このことを考えると今後の支配的な言語は2050年には圧倒的にGDPが世界一となる中国になる可能性が高い。そうした観点から見ると中国語が世界を覆っている社会において、日本語はどのような影響を受けるかを考えるべきである。

 また、問三については、インターネットと既存のシステムを融合した新しい形の解決策or結論が必要に煮る。こうした解決策or結論は「SFC企画書形式小論文」で紹介しているように。
(1) 学際分野を活用している
(2) データーベース・技術面での優位性がある
(3) ほかの人が対抗できない優位性がある
という側面があると良い。

・ 模範解答

問題二

議論の整理……

共通の前提→

電子書籍とは、デジタル化されたデーターを電子媒体を通じて利用できるようにしたコンテンツである。電子書籍は、更新や流通や分析、複製までもが容易にできるという特性を持っている。

議論の論点→

こうした電子書籍の長所は、著者にとっては誰もが書籍を出版するチャンスがあること、読者にとっては操作性に優れていることが挙げられる。一方で短所としては、資料B-2にもあるように書籍の質が玉石混淆になりやすいこと、出所が不明な文章の複製が氾濫することが挙げられる。また資料B-3にもあるように、大学の研究の現場において、電子書籍に慣れている学生がテキストの出所や正確さを検証しないという問題もある。(284文字)

問題一

議論の整理→

電子的図書館とは、資料A-1にあるようにインターネットを通じて世界のすべての書物にアクセスできるという究極の図書館である。現在は英語が世界の普遍語として利用されているが、資料A-2にあるように普遍語はその時々の世界情勢により変わりうるので将来的には米国の二倍にもなるといわれる経済規模の点から中国語が普遍語になると考えられる。

問題発見・論証→

中国語が普遍語となり、全世界に中国語を普遍語とする電子的図書館が出来た場合問題になるのは、助詞に至るまで漢字で表記する中国語の難しさである。

解決策or結論→

そのため日本語の「て・に・を・は」が助詞として見直され、中国語の簡体字と日本語の「て・に・を・は」を組み合わせた「ピジン・チャイニーズ」が全世界で利用されると私は考える。これにより、変形日本語は世界的な普遍語となるのである。

解決策or結論の吟味→

普遍語による電子的図書館の普及は、英語を苦手とする日本人にとって、短期的には苦痛をもたらすが、将来的には日本語の世界言語への飛躍という大きな可能性を秘めているのだ。また、他の議論として自動翻訳の普及を挙げる資料A-2もあるが、言語はその民族の思考回路と大きく結びついているためこれは難しいだろう。(498文字)

問題一(別解)

将来の電子図書館が日本語に与える影響は「日本語の喪失」である。電子図書館は普遍語による電子書籍の集積である。よって自然に英語が普及し、日本語がかき消されていくのである。
日本語の喪失に代表される現地語の喪失は、現地人のみならず全世界の人々にとって深刻な問題である。なぜならば、言語は思考回路と紐付いているからである。ある単一の言語のみが利用されるようになるということは、人類がある単一の価値観しか持たなくなることとほとんど同義である。この多様性の欠如こそが、地球に何らかの危機が訪れた際に、人類の致命的な脆弱性に繋がると私は考える。
たとえば、英語では「緊張する」という概念のみに対応する単語はない。英語における「nervous」は神経質、切れやすいという意味さえ含む。もし英語のみが全世界で使われるようになったら、人々は緊張しなくなるかもしれない。それが世界にどれほどの悪影響を及ぼすかは想像に難くない。
電子図書館による言語の単一化は、人類滅亡への第一歩であると私は考える。そうした危惧を払拭するために、私達には電子図書館の使い方について新たなアイディアが求められる。(499文字)

問題三

議論の整理→

学生たちにとって図書館は先行論文の調査などで親しみのある空間である。現在、電子的図書館の登場によって、従来の図書館であれば考えられなかった使い方が頻出している。電子的図書館をどのように使えば良いか、という問いはそのまま電子的図書館をどのように使うのが望ましくないのかという問いにもつながる。

問題発見→

大学の教員にとって、学生による最も望ましくない電子書籍の使い方はひとえに出所を明記しないコピー&ペーストの濫用である。

論証→

こうした問題の発生原因は、論文執筆時のプロジェクト・マネジメントの不足である。大学における論文の審査は、大きく分けて中間発表と期末発表の二回しかない。そのため、多くの学生は中間発表と期末発表前にどうにか帳尻を合わせる事に必死で、それ以外の期間に研究活動をするケースが文系学生の場合は特に少ない。

解決策or結論→

こうした問題の解決策or結論としては、毎日、研究会の助教クラスが、インターネットテレビ電話で5分~10分程度配下の学生に論文の執筆進捗を確認することを提案したい。毎日論文の下書きを提出させることにより、コピー&ペーストの濫用が疑わせるケースを事前に排除するのだ。

解決策or結論の吟味→

他の解決策or結論としては、期末に提出された論文をコピー&ペーストを発見するソフトに掛けて、不正を発見した場合単位を認めないという方策があるが、このような方法には問題点も多い。こうした不正防止の仕組みづくりは、不正の事前防止の視点がなによりも重要である。大学は前途ある若者を育成するのだから、不正を発見するというネガティブな方向にではなく、論文執筆のプロジェクト・マネジメントを強化するというポジティブな方向に努力を傾注すべきだ。(694文字)

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